新・ことば事情
5137「天使の分け前」
2013年4月12日の日本経済新聞夕刊の最終麺「シネマ万華鏡」で紹介されていた映画のタイトルが、
「天使の分け前」
というものでした。スコットランドを舞台に、「スコッチウイスキー」を準主役に据えた映画なんだそうです。そして、タイトルの「天使の分け前」とは、
「ウイスキーが熟成樽の中で年2%ほど蒸発して失われること」
を言うのだそうです。なんとなく聞いたことはありました。これって「ワイン」でも言うような気がします。
でも、ここで疑問が。
「『年2%』ずつ蒸発して行ったら、50年経ったら、樽はからっぽになるのではないか?」まあ、スコッチウイスキーと言ってもせいぜい、20年物とか25年ものだからその心配はないのか?いや、「年2%」と言うのは、「最初の量の2%」ずつではなくて、当然、最初の年に2%減ったら、元の量の98%になるのだから次の年は「98%の2%」で、「1,96%」減るので、「96,04%」、次の年はそれの2%だから・・・と考えると、カラになるには50年以上かかるとか、いやいや、減った分は少しずつ少しずつ足していく、ほら、焼き鳥や串カツや「秘伝のたれ」はもう何十年も継ぎ足して使っているではないか、みたいなことがあるのではないか?とか、疑問とその解答は、際限なく広がるわけですが。
きっと、元々はこの「天使の分け前」というのは「英語」だったのでしょうね。英語ではなんというのだろうか?
「エンジェルズ・シェア」
とかそんな感じなのかな?手元の英和辞典には載っていなかったので、「ウィキペディア」を見ると、ありました!やはり、
「Angel's share」
でした。
「天使の取り分」
とも言うようですね。それも耳にしたことがありますが、「分け前」のほうがいいかなあ。
翻訳がうまいですよね「天使の分け前」。「ウィキ」には、
「一説によると、コニャックの原産地であるフランスのコニャック地方では、一日にボトル2万本にも及ぶ量の『天使の取り分』が発生していると言われている」
と書かれていました。え、一日にボトル2万本!ちょっと、天使、飲みすぎでないかい?ちょっと、そのおすそ分けに授かってみたいような・・・と思っているうちにこの映画の公開終わっちゃったのかなあ・・・まだ見ていないのですが・・・。
(追記)
「お酒全般」にお詳しいNHKの原田邦博さんから、すぐにメールをもらいました。それによると、「スコッチモルトウイスキー」の場合は、樽の中身が減っても足すことはなく、そのまま少しずつ蒸発していくのだそうです。出荷する段階で、ほかの樽と混ぜて「質を均一」にすることはあって、これを「バッティング(vatting)」というそうです。あ、そういえば、
「VAT69」
というお酒のラベルを見たことがあるけど、あれも関係あるのかな?
また、「バー」での話では、
「棚に並んでいるボトルの酒が少しずつ"蒸発(?)"することがある」
のだそうです。原因は、
「オーナーが、客のいない間にそっと飲んでいる」
のですが、これを俗に、
「店主(てんしゅ)の分け前(owner's share)」
と呼んでいるそうです。うまい!山田くーん、原田さんに座布団一枚!!
たしかに、ボトルキープしていたボトルに、まだだいぶん残っていたはずなのに、次に店に行ったときには恐ろしく減っていたり無くなっていたということは、これまでに何度もありましたが、証拠はないし酔ってるから記憶はあやふやだし・・・。
「キッチンドリンカーの奥さん」が台所に隠しておいたお酒がちょっとずつ減ることがあり、実は「旦那さんがこっそり飲んでいた」と、これを、
「亭主の分け前」
・・・って話はないか。山田くーん、わたしの座布団、全部持ってっちゃいなさい!
(2013、6、21)