新・ことば事情
5127「靴足袋」
夏目漱石の講演録『私の個人主義』(講談社学術文庫)を読んでいたら、
「靴足袋」
という言葉が出て来て目に留まりました。なんと読むんでしょうか?
「くつたび」
でしょうね、きっと。意味はこれもおそらく、
「靴下」
のことなのではないでしょうか?
講演は、明治44年8月、兵庫県の明石で行われた「道楽と職業」というもの。「明治44年」というのは、西暦に直すと「1911年」です。日露戦争も終わって韓国併合の翌年であります。今から102年前。その頃はまだ「靴下」という言葉はなかったのでありましょうか?(ありゃ?文体がヘン!)
『精選版日本国語大辞典』で「くつたび(靴足)」を引くと、
「(1)足袋くるぶしから下だけのもの。(2)→くつした(靴下)」
とあり、(2)の用例は「風俗画報63号(1898年)」からでしたので、漱石のこの講演(1911年)と年代も近いです。(1)の方の用例は「仮名草子・都風俗鑑」(1681年)と、江戸時代のものでした。また、インターネットの辞典『デジタル大辞泉』に載っている「靴足袋」も一番目の意味として「靴下」を挙げて、用例は二葉亭四迷の翻訳小説「かたこひ【片恋】」(明治29年=1896年)が載っていました。ツルゲーネフの中編小説「アーシヤ」(1858年作)が原作だそうです。
「靴足袋」でグーグル検索をしてみますと(6月12日)、
「靴足袋」=3万2400件
でした。ただ、そこに出て来る「靴足袋」の映像は・・・『精選版日本国語大辞典』の(1)でも(2)でもなく、
「いわゆる『地下足袋』のような形状のもの」
だったのです!「地下足袋」が脛(すね)の辺りまであるヤツです。
うーん、でも漱石の時代はやはり、現在の「靴下」の意味で「靴足袋」が使われていたようですね。