新・ことば事情
5125「おとつい」
夕方のニュースのスタッフが、
「『おととい』と『おとつい』の違い、使い分けの基準ってなんだっけ?」
と言っているのが聞こえたので、
「『おととい』が放送では基本。『おとつい』は方言!」
と言ったところ、
「ええ!そうだったんですか!『おとつい』はどこの方言ですか?」
と聞かれたので、
「たしか関西弁で『おとつい』って言うんだよ」
と答えてから、ちょっと自信がなかったので、調べました。
『精選版日本国語大辞典』を引くと、「おとつい」は、
「おと(遠)」「つ」は「の」を表す格助詞、「い」は「ひ(日)」の意の「をとつひ」の変化したもの。
とありました。つまり、
「『遠つ日』と書いて『おとつい』」
と言っていたんですね!「とおつひ」が「音韻転換」で「おとつひ」→「おとつい」ということですか。そうすると、「おととい」よりも「おとつい」のほうが古いのか。どうやら、「おとつい」は8世紀の『万葉集』にも出て来る「古い言い方」のようです。それが時代の流れと共に「おととい」に変わっていったと。
『精選版日本国語大辞典』の「おととい」のほうの「語誌」を読むと、
「(1)『万葉集』に用例の見えるオトツイにかわる語形として、平安朝以降に用いられるようになった。近世に入ると、再び文献の上に復活するオトツイと併存する形となる。(2)17世紀頃までは上方でもオトトイの方が規範的な語形と認識されていたが、19世紀ころには逆転した。その後、上方はオトツイ、江戸を含む東日本ではオトトイが広く用いられたため、明治以降オトトイが標準語として定着した。」
とありました。これを読んでも、「オトツイ」のあとに「オトトイ」が出来たとわかります。やはり、明治以降の「現代」においては、
「西=オトツイ」「東=オトトイ」
という住み分けがなされ、「標準語」としては「オトトイ」となって来たのですね。
しかし、万葉の時代から1300年で考えると、こんなに行ったり来たりの変遷があるんだなあと、改めて・・・。「言葉は時代と共に変わる」ものなのですね。