新・ことば事情
5101「宿替え」
この前の土曜日、甲南大学での講義が終わって帰る途中の「JR摂津本山駅」での出来事。
電車を待つ間、ホームのベンチに座って昼飯のおにぎりを食べていたところ、「N」のイニシャルが書かれた青い塾のカバンを背負った、小学校高学年ぐらいの男の子が隣に座って来ました。その男の子に、ベンチの一番端に腰かけていた80歳ぐらいのおばあさんが話しかけました。
「何年生?」
「小5」
「ああ、小学校5年生。どこから来たの?」
「尼崎」
「まあ、(小学生にしては)遠くから・・・」
このおばあさんは、この子が(土曜日なのに)「小学校に電車で通っている」と勘違いしているようです。というのも、その後にこう言ったからです。
「尼崎に住んでいるのに、電車に乗って摂津本山まで来るというのは、"宿替え"したの?」
この"宿替え"という言葉が、塾に通う頭の良い小学5年生の男の子には、わからなかったようで、
「ん??」
と聞き返したのですが、おばあさんはそれに気づかずに、
「"宿替え"したの?」
と繰り返しましたが、その単語が分からないんですから、通じるわけがありません。
横で聞いていた私が、たまらず、男の子に助け舟を出しました。
「"引越ししたの?"って聞いてるんだよ」
それで意味が通じましたが、当然、答えは、
「うううん、前から尼崎に住んでる」
今度はおばあさんに助け舟を出す番です。
「尼崎から、塾に通うために、ここまで来てるんですよ」
と、お節介にも口を出したら、当然、おばあさんの次の質問は、私に向かって、
「あら、お父さま?」
いえ、違います。通りすがりの旅人です。
それ以上、口を出すのはやめましたが、
「ああ"宿替え"という言葉はもう"死語"なんだなあ」
と感じたのでした。私自身も久々に聞いた言葉だなあ。