大阪の「つけまつげサロン(まつげエクステ)」で、無免許で「施術」をしていたとして、女性経営者が逮捕・送検されました。このニュース、4月11日昼のニュースでYアナウンサーが、
「施術」を「シジュツ」
と読みました。それより2日前の4月9日の夜のニュースで、Uアナウンサーは、迷わず、
「セジュツ」
と読んでいたとのこと。そこでびっくりしたUアナ「国語辞典」「アクセント辞典」などを調べたところ、辞典には、
「シジュツ」
としか出ておらず「セジュツ」は出て来なかったというのです。実はYアナは、事前にしっかりと辞書を引いて読み方を調べていたのでした。
しかし、どう考えても、「セジュツ」の方が一般的。
こういった状況で、当のYアナウンサー、Uアナウンサー、報道のYデスク、Oデスクが、
「施術の読み方は『シジュツ』でしょうか?それとも『セジュツ』でしょうか?」
と相次いで私に、尋ねて来ました。
これに対する私の答えは、
「辞書ではまだ『シジュツ』しか見出し語として載ってないんだけど、実態としては『セジュツ』が優勢。これについては、今年2月の用語懇談会の報告書に書いたんだけどな・・・」
その内容は、 日本新聞協会のI氏から提議されたもので、
★「施術」の読み方
中京テレビのSアナウンス部長から質問されたのだが、「施術」という言葉、国語辞典を引くと「しじゅつ」としか載っていない。「ネイルサロン」や「つけまつげサロン」などで「施術たった○分」などとよく使われているが、放送では「しじゅつ」「せじゅつ」どちらを使っているか?2月6日の読売新聞に「施術と称し 胸触る」という見出しの記事があり、読売新聞用語幹事のS氏に聞いたところ「せじゅつ」だと答えたが。「社団法人・施術マイスター協会」という所に電話したら「せじゅつ」だと答えた。「しじゅつ」と読むと「手術」と間違いやすいので、放送分科会では「せじゅつ」と定めてはどうか?
これに対して各社の意見としては、
(NHK)マッサージの世界では、「あんま・マッサージ師の国家資格のない人」が行うのは「施術(せじゅつ)」。「国家資格を持っている人」が行う行為しか「マッサージ」と呼べない。「医療類似行為」である「柔道整体師」等の行為は「治療」とは言えず、「施術(せじゅつ)」である。
(毎日放送)「リフレクソロジー」も「せじゅつ(施術)」。厚生労働省も「せじゅつ(施術)」と言っている。
というものでした。
また、読売テレビ夕方のワイドニュース番組「ten.」の清水健キャスターからもメールが。
「"施術"の読みは、9日火曜日の『ten.』のニュースでも出てきました。その日は、林キャスターが休みで、萩原アナウンサーに"陰読み"をしていただきました。その時に、萩原さん、坂プロデューサー(&清水)で、全く同じような話が出て、"せじゅつ"でいこうとなったという経緯があります。」
これを受けて、読売テレビアナウンス部・報道局でも、「施術」の読みは、
「セジュツ」
で行こうということになりました。
他社の現状はどうかな?と意見をメールで聞いたところ、
(静岡放送OB)
これについては、私も「せじゅつ」の方がしっくりきます。付け加えるなら、「しじゅつ」と読んだ場合、「手術」と聞きちがえる恐れがあります。「約」をわざと「およそ」に言い換えるのと同じと捉えたいです。
(MBS)
MBSでは同じ「まつげエクステ」のニュースで、辞書に「しじゅつ」しかないことを調べた上で、アナウンス室と報道局の用語委員で話し合い、「せじゅつ」と読むことにしました。「せじゅつ」と読むほうが一般的であること、「施行(しこう)」「施策(しさく)」と「施工(せこう)」の違いを考えると、実際に手を使って「施す」ことは「せ」と読むほうがしっくりくることが理由です。視聴者の反応をみたうえで、今月の社内用語委員会で「『せじゅつ』と読もう」と諮る予定です。
(ABC)
実は弊社報道でも問題にあがっていたところで、実にタイムリーな共通の話題。弊社の状況は、「せじゅつ」で読んでいる。根拠としては、
① 「せ」のほうが、「し」で読んだときよりも聞きやすい、わかりやすい
② 取材現場では、「せじゅつ」以外の言い方をしている者がいない
ということになっている。とはいえ、先日は「し」で読んだアナウンサーもいた。基本的には「せじゅつ」とすることになっている。
(NHK)
「施術」は国語辞典には「しじゅつ」「せじゅつ→じじゅつを見よ」となっている。「施行」を「せこー」と読む例の一つだろう。NHKでは「施術」(せじゅつ」としている。「手術」との誤解を避けるため。しかし、なるべく言い換えるようにしている。
といった意見が寄せられ、各社、
「せじゅつ」
と読むようです。放送でも「しじゅつ」と読むべきだという意見は寄せられませんでした。
また、『三省堂国語辞典』の編纂を担当している早稲田大学非常勤講師の飯間浩明さんにも伺ったところ、
『「施術」は、手術のみならず、美容・散髪・まじない・催眠に至るまで、いろいろに使われています。私は、1000円カットの店でこの語に注目して以来、例を探していました。そうすると、けっこう応用範囲が広いことに気づきました。読み方は、ルビが無い場合が多いので困るのですが、テレビの例では、たとえば佐伯チズさんの門下生の方が、
『佐伯先生の〔美容の〕◆施術〔せじゅつ〕をお客様に受けていただく(NHK
BS-hi「プレミアム8・"きれい"をあきらめないで~美容家・佐伯チズ~」
〔再放送〕2010.02.18 14:00)』
と言っていたので、まあ専門的にも「せじゅつ」であろうと考えました。
次の『三省堂国語辞典』第7版では、「せじゅつ」の読みで主項目を立てようと考えています。「しじゅつ」は、空項目に格下げです。』
とお返事を頂きました。ありがとうございます。
「施術」の読み方の現状はこういったところです。
(追記)
2年ぶりの追記です。
2015年3月4日、大阪市淀川区で去年6月、当時生後4か月の男児に、体を伸ばすなどの"施術"をして死亡させた業務上過失致死容疑で、子育て支援をうたうNPO法人「子育て支援ひろば キッズスタディオン」(本部=新潟・上越市)の理事長、姫川尚美容疑者(57)を逮捕しました。この、
「乳児の背筋を伸ばす施術」
の「施術」を、各社、
「セジュツ」
と読んでいました。2年前に『三省堂国語辞典』編纂者の飯間浩明さんは、
「次の『三省堂国語辞典・第7版』では、『せじゅつ』の読みで主項目を立てようと考えています。『しじゅつ』は、空項目に格下げです。」
と述べてらっしゃいましたが、その後、私が確認怠っていましたが今、2014年1月に出た(実際は2013年の12月には出ていましたが、奥付は2014年1月)『三省堂国語辞典・第7版』を引いてみたら、その言葉どおり「せじゅつ」が「見出し」となり、「しじゅつ」は「空(から)見出し」になっていました!
(2014、3、4)
(2013、4、24)