新・ことば事情
5036「最早」
「ミヤネ屋」にも出演している、お天気キャスターの蓬莱さんから、
「『最も早い』という意味で『最早(さいはや)』という言葉はありますか?」
と聞かれたので、
「国語辞典に載るような言葉としては『最早(さいはや)』は、ない。普通に『最も早い』と言うべきでしょう。『最早』と書いたら『もはや』と読む。スピードが最も速いという意味であれば『最速(さいそく)』」
と答えました。
「最早」と書いて「さいはや」と読む読み方は、
「重箱読み」
と呼ばれるものです。「重箱(じゅうばこ)」のように「音読み+訓読み」の組み合わせで2文字の熟語を読むもので、どちらかというと「例外的」で、普通は「音読み+音読み」あるいは「訓読み+訓読み」で読むものです。(逆に「訓読み+音読み」で読む者は「湯桶(ゆとう)読み」と言います。ご存じの方はご存じでしょうが、最近は知らない若者も多いようです・・・。)
「最」の付く熟語を『三省堂国語辞典』で調べたところ、
「最高」「最低」「最近」「最初」「最後」「最速」「最多」「最少」「最小」「最大」「最上」「最盛」「最新」「最深」「最長」「最短」「最適」「最北」「最南」「最西」「最東」「最良」「最貧」「最強」「最狭」「最古」「最奥」「最悪」「最右翼」
などがありましたが、ご覧になって分るように「最」の後に来る語は、「すべて音読み」です。つまり、
「重箱読みには、なっていない」
のです。
ただ、最近は、「最」を「音読み」で「さい」と読み、その後に「訓読み」の言葉をくっつける読み方が出て来ており、代表的なのは、
「最薄(さいうす)」
です。新しい言葉をいち早く取り入れることで知られる『三省堂国語辞典』には「最薄(さいうす)」は採用されて(載って)います。
ほかに私が見つけた中には、
「最香ばしい」
というのもありましたが、やはり違和感があります。コマーシャルなどで人目を引くために、わざとルールを無視して作られた言葉だと思われます。
蓬莱さんには、
「『最早』を『さいはや』と言うのは、ウェザーニューズの社内の、あるいは気象予報士の人たちの『業界用語』、というような言い方はできますよ」
とアドバイスしました。ただし「一般語」ではありませんね。
翌日、同じウェザーニューズの気象予報士・菅さんがやってきて、
「きのうの『最早』ですが、東京管区気象台のHPの『気象庁天気相談所』作成の『東京の桜(ソメイヨシノ)の開花日と満開日』の昭和2年(1927年)~去年(2012年)までのデータ一覧表の下のところに、『最早記録』『最晩記録』という言葉が載っているのですが・・・」
と言うので見てみると、確かにそう記されています。
「でもこれは書き言葉、文字で示しただけで、どう読むかルビが振ってあるわけでもないですねえ。どう読むか、聞いてみましょう!」
ということで、気象庁天気相談所に電話して聞いてみました。
「この言葉、辞書にも載っていないんですが、気象の専門家の間では、どう読むのでしょうか?」
「ああ、これは目で見て分かるようにそう書いただけで、読むときは『最も早い』と読むでしょうねえ。」
「『さいはや』とか『さいそう』とかは、読まないですか?」
「読みませんねえ・・・」
ということで、一件落着!