新・ことば事情
5023「護衛艦のアクセント」
青森放送の先輩アナウンサーから質問を受けました。
「『護衛艦』のアクセントは、NHKのアクセント辞典には『中高』しか記載されていません。三省堂、新明解など、どれも載っていません。『自衛艦』は、第1アクセントが『中高』、第2アクセントは『平板』。同僚の間で『なぜ「護衛艦」は『平板アクセント』を認めていないのか』と聞かれました。察するに『2拍目に長音が来た場合は「自衛隊」の特殊例を除き「中高アクセント」なりやすいのではないか?』と考えましたが、『自衛艦』のように第2アクセントとして『平板』を認めてもよいのではとも思います。
参考までに『駆逐艦 潜水艦 掃海艦 補給艦 救難艦 硝戒艦』などすべて『平板アクセント』です。個人的には、アクセント辞典に従い、放送では『中高アクセント』で通しています。ご意見をお聞かせください。」
これに対する私の返事は、
「ご質問の『護衛艦』のアクセントの件ですが、気にしたことがなかったです。そして、『平板アクセント』で『ゴ/エイカン』と読んでいました。『NHK日本語発音アクセント辞典』は、たしかに『中高』の『ゴ/エ\イカン』しか載っていないですね。その『NHKアクセント辞典』の後ろの方にある『複合語の発音とアクセント』の36ページに『~艦』のアクセントについて書かれていました。それによると、『~艦』という言葉のアクセントには、
(1)「○/○○カン」という「平板アクセント」と、
(2)「○/○○\カン」という「中高アクセント」
の2通りが記されていて、そのうち(2)の変形として、
(3)「○/○\○カン」
という形もあると。『ゴ/エ\イカン』は、この『(3)』タイプですね。用例としては、
(1)平板のみ=巡洋艦、潜水艦、測量艦、敷設艦、フリゲート艦、補助艦
(2)平板と中高の両方=海防艦、駆逐艦、
(3)中高のみ =なし
(4)中高と中高の変形=主力艦
となっています。なぜか、ここの用例に『護衛艦』は載っていません。
複合語のアクセントは一般的に、『2語の結びつきが強くなる』と『平板化』します。その意味では『○○○艦』に『平板』が多いのは、きっと『結びつきの強い語が多い』からでしょう。その中で、平板ではない語、『海防艦』『駆逐艦』『主力艦』、そして『護衛艦』というのは、結びつきが弱いというわけではないですが、『艦』よりも、その前の『○○○』の部分(「海防」「駆逐」「主力」「護衛」)の「言葉の意味」が大事で、『それを強調したい』
という気持ちが強いのではないでしょうか?
そういった場合には、複合語を『1語』として『平板』で読むよりも、『○○○』の部分を強調するために、『アクセントの山』をそこへ持ってきた方がよいというケースがあります。
『平板化』の流れとしては、
(1)複合語としての結びつきが強くなった(=よく使われるようになった)。
場合と、もう一つは、
(2) 強調を必要としていた「○○○」部分(=護衛)が、言葉を発する意識の上では、それほど強調が必要でなくなった。
ということがあるのかもしれません。
これと、あと思いついたのは、『護衛』の読み方が『ゴエー』と長音になると『平板』につながりますが、『ゴエイ』と読めば『平板にならない』とか、もしかしたらそういうことも関係するかもしれません。」
というものでした。
先日の新聞用語懇談会放送分科会でNHKの委員の方に、NHKアクセント辞典に「護衛艦」は「中高アクセント」しか採用されていない理由を聞いたところ、
「なぜかは、わからない」
と。そして、
「『アクセント辞典』の改訂に向けてNHKアナウンサー500人のアクセント調査を行った。その結果『護衛艦』に関しては(複数回答)、『中高』が52%、『平板』が96%で、圧倒的に『平板』が多かった。次の辞典の改定では、おそらく、①平板②中高になると思う。』
とのことでした。
新しいアクセント辞典の完成が待たれます。「舟を待つ」!