新・ことば事情
4955「あなたの健康をそこなうおそれがあります」
6年前に出た拙著「スープのさめない距離」(小学館)のために書きかけて挫折したというか、まあ採用されなかった原稿で、もう「平成ことば事情」に書いたと思っていたら、まだ書いていなかったものを、ここに載せておきます。(一部は「緩慢なる自殺」に書いて載っていますが。)
「喫煙」を批判的に指し示す言葉。タバコは、服用すればすぐに死に至る、あるいは重篤な状態に陥るものではないが、長い目で見れば吸わない人よりも、肺がんや喉頭がんなどの疾病にかかる危険性は高い。さらに最近は、副流煙による受動喫煙の問題が社会問題化し、愛煙家は年々肩身が狭くなっている。
2003年11月のタバコ事業法改正により、2005年7月からこれまでタバコのパッケージに印刷されていた「健康を損なうおそれがある」という表記から、タバコのパッケージの両面の30%以上の面積に、以下に示す具体的な健康への危険性を示す健康警告表示が義務づけられた。
「喫煙は、あなたにとって肺がんの原因の一つとなります」
「喫煙は、あなたにとって心筋梗塞の危険性を高めます」
「喫煙は、あなたにとって脳卒中の危険性を高めます」
「喫煙は、あなたにとって肺気腫を悪化させる危険性を高めます」
「妊娠中の喫煙は、胎児の発育障害や早産の原因の一つとなります」
「たばこの煙は、あなたの周りの人、特に乳幼児、子供、お年寄りなどの健康に悪影響を及ぼします。喫煙の際には、周りの人に迷惑にならないように注意しましょう」
「人により程度は異なりますが、ニコチンにより喫煙への依存が生じます」
「未成年者の喫煙は、健康に対する悪影響やたばこへの依存をより強めます。周りの人から勧められても決して吸ってはいけません」。
この8種類が、2種類ずつ組み合わされて掲載されている。
日本たばこ産業株式会社(JT)は、2004年11月5日、喫煙の危険性を警告する「注意書き」を変更した新デザインを発表、11月下旬から変更した11銘柄を発売、残る86銘柄も、2005年6月末までに順次変更した。
なお、これら広告宣伝や健康警告表示を定める法律(たばこ事業法)は財務省の所管。厚生労働省が所管する法律でない。
ちなみにタバコ対策先進国の警告表示を見ると、ブラジルではパッケージ全面を使い、カナダ・EU・オーストラリアなどは50%を使って、カラー写真入りの大きな文字で警告されている。
イギリスのタバコ(ダンヒル)には、ズバリ、
「Smoking kills(タバコは人を殺します)」
と記されている。
日本では受動喫煙被害防止の流れを受けて、健康増進法第25条が制定され、さらに世界的には公衆衛生分野における初めての多数国間条約として2005(平成17)年2月27日に「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約(たばこ規制枠組条約)」が発効した。
そのほかに気付いた変化としては、
*ナチスのタバコ撲滅運動と昨今の禁煙、健康増進法。チャーチルの葉巻。スペイン・セビージャの、カルメンが働いていたタバコ工場。
*昨今、ドラマの中で喫煙シーンが使えなくなってきた。足で吸い殻をもみ消すシーンなど。時間が経ったことを暗示させられなくなった。
などなど。
~これを書いた当時から、さらに愛煙家は肩身が狭く、またタバコの大幅な値上げによって懐具合もさびしくなっています。私はタバコを吸わないのですが、それでも「愛煙家の皆さんは大変だなあ」と思います、はい。