新・ことば事情
4932「『極悪人』はあっても、なぜ『極善人』はないのか?」
唐突に、
「『極悪人』という言葉はあっても、なぜ『極善人』という言葉はないのか?」
という疑問が浮かびました。
もしかして、「悪」は極められても、「善」は極められないということからなのでしょうか?「極」は「マイナスイメージを強調するもの」なのか?いやいや、
「極上」
という言葉がありますから「マイナスイメージ」ばかりではありません。でも「道」を「極める」と、
「極道」
で、「マイナスイメージ」ですよね・・・。
Google検索では(1月7日)、
「極悪人」=128万0000件
「極善人」= 1150件
やはり、「極悪人」に比べると「極善人」なんて言葉は1000分の1以下しか使われていません。国語辞典でも「極悪人」は「日葡辞書」(1603-04年)の時代から載っているのに、「極善人」という言葉は辞書にはありません。
もしかしたら、そもそも「善人」という言葉が「悪人」ほど歴史のある言葉ではないのかもしれません。あ、でも、
「善人なおもて往生す、いわんや悪人をや」
で、「善人」も「悪人」も出てきますねえ・・・親鸞でしたっけ。「悪人正機説」か。
そうすると、やはり「極」という強調語の特性の様にも思えます。
「極」の付く言葉を辞書から拾ってみましょう。
『精選版日本国語大辞典』だと、まず「極悪」はもちろん載っていますが、その後に出てくるのが、
「極熱(ごくあつ)」
で、意味は、
「この上なく熱いこと」
だって。そのままやんけ。こんな言葉、あるんだ!そのあとは、
「極印」「極位」「極意」「極一」「極月」「極極」「極古渡」「極罪人」「極重」「極暑」「極小」「極聖」「極上」「極成」「極心」「極信」「極真」「極睡」「極髄」「極摺」「極製」「極説」
「極善」
あ、あった!「極善」!でも「極善人」はありません。
辞書、続けます。
「極足」「極揃(ごくそそり)」「極揃(ごくそろい)」「極大」「極超短波」「極詰(ごくづめ)」「極伝」「極道」「極内」「極熱(ごくねち・ごくねつ)」「極秘」「極微(ごくび・ごくみ)」「極品」「極貧」「極太」「極細」「極密」「極妙」「極安」「極楽」(以下、「極楽○○」という熟語は省略)「極理」「極老(ごくろう)」
「極老」なんて言葉があるんだ。
「この上なく年をとっていること。また、そのさまやその人。極老人」
ということです。そうか「ごく自然に」というときの「ごく」も「極」なのね。今、わかった。続けます。もう少し。
「極臈(ごくろう→ぎょくろう)」「極老人」
ご苦労さん。以上です!
ピックアップした「極○○」は、読み方の違うものも含めて「51個」。この中で「プラスイメージ」のものは、
「極印」「極位」「極意」「極一」「極小」「極聖」「極上」「極成」「極心」「極信」「極真」「極髄」「極摺」「極製」「極説」「極善」「極足」「極揃(ごくそそり)」「極揃(ごくそろい)」「極詰(ごくづめ)」「極伝」「極品」「極妙」「極楽」「極理」
と「25語」ぐらい、つまり「プラスイメージ」と「マイナスイメージ」(あるいは、いずれでもない)の割合は「半々」でした。
ということは、最初、私がイメージした、
「プラスイメージの"極"は少ない」「非対称、アンビバレンツ」
というのは、「国語辞典の上では」成り立ちませんね。
でもここに出て来た言葉で「私が知っていた言葉だけ」をピックアップすると、
「極悪」「極印」「極意」「極月」「極極」「極小」「極上」「極大」「極超短波」「極道」「極秘」「極貧」「極太」「極細」「極安」「極楽」
の「16語」に過ぎず、その中の「プラスイメージ」の言葉は、
「極印」「極意」「極小」「極上」「極大」「極太」「極安」「極楽」
の「8語」。あれ?やっぱり「半々」か。(「極小」や「極太」が「プラスイメージ」かどうかはわかりませんが、一応。)
「極」は「プラスイメージ」にも付くけれども、なぜか「極善人」という言葉は使われない、と。謎は謎のまま残ってしまいました・・・。