新・ことば事情
4919「でんぐり返りか?でんぐり返しか?」
先日亡くなった森光子さん(92)と言えば、舞台「放浪記」での、
「前回り(前転)」
が呼び物の一つでしたが、お年になられてからは、それを封印されました。
さて、この「前転」を、俗語で何と呼ぶか?つまり、
「でんぐり返り」か?「でんぐり返し」か?
という疑問が出ました。「り」か?「し」か?という問題ですね。
」私が普段使っているボキャブラリーでは、
「でんぐり返り」
なのですが、新聞や週刊誌報道では、
「でんぐり返し」
が多いようなのです。11月21日に読んだ、その時点での最新の『週刊文春』では、
「でんぐり返し」
でした。グーグル検索(12月19日)では、
「でんぐり返り」 = 9万2400件
「でんぐり返し」 =161万0000件
「でんぐり返り、森光子」= 6510件
「でんぐり返し、森光子」= 3万8300件
で、圧倒的に「でんぐり返し」でした。こんなに差があるとは・・・地域差があるのでしょうか?
辞書では、『広辞苑』は「でんぐり返り」は「空見出し」で「本見出し」は「でんぐり返し」。『明鏡国語辞典』は「でんぐり返し」しか見出しがなく、その意味の説明の中に「でんぐり返り」も載っていました。『三省堂国語辞典』も同じ。『新明解国語辞典』も見出しは「でんぐり返し」のみ。意味の中に、
「『でんぐり』は、転倒の意の動詞『でんぐる』の連用形」
とあり、また、動詞の、
「でんぐり返る」
が見出しとしてあって、その中に「名詞形」として、
「でんぐり返り」
がありました。ふーむ、その辺りがポイントかな?
『精選版日本国語大辞典』は、「でんぐり返り」がちゃんと載っていました。用例は『西洋道中膝栗毛』(1870-76)<仮名垣魯文>からで、
「目のくり玉が驚いて七転八倒(デングリカヘリ)をしたと思ひなせへ」
と「七転八倒」の「ルビ」として使われていました。一方の「でんぐり返し」も載っていましたが、用例は、『俚言集覧(増補)』(1899)と、『西洋道中膝栗毛』よりも少し新しい。さらにもう一つの意味の「逆転すること」の用例は『或る女』(1919)<有島武郎>と、さらに新しくなっていました。
でもそんなに時代に開きがあるわけではないので、どっちが先かというのはわからないですねえ。