韓国で、女性初の大統領に決まった、
「朴槿恵」
次期大統領の名前の読み方ですが、NNN(日本テレビ系列)では、
「パク・クネ」
と言っていますし、字幕もそう振り仮名がついています。テレビ局は、おそらくみんな
「パク・クネ」と言っていると思います(確認はしていない)が、新聞はどうも様子が違うようなのです。大統領選の結果を伝えた日の新聞のルビは、
「朝日・毎日・産経」=「パク・クネ」
とNNNと同じなのですが、
「読売・日経」=「パク・クンヘ」
と、微妙に違うのです。
似た名前で思い出すのは、大韓航空機爆破事件の金賢姫・元死刑囚の日本語教師で、拉致された田口八重子さんだと言われる、
「李恩恵」
です。この読み方は、
「リ・ウネ」
と漢字も似ているし、発音も近いのではないかと思います。そして、それを「音」で言う(アルファベットで書いてみる)と、
「クンヘ」=KUNHE
「クネ」 =KUNE
で、違いは「H」が入るかどうか。それを発音するかしないかで、変わってきているのではないかと考えました。
つまり「ライン・アップ」を「ラインナップ」と読むような、ある種の「リエゾン」的な要素の「ある・なし」が、カタカナ表記の違いに現れているのではないかと思うのですが、いかがでしょうか?
韓国語にも詳しいNHK放送文化研究所の塩田雄大さんに聞いてみたところ、
『韓国語では、〔n〕のあとの〔h〕は、よほど意識した場合でない限り、響きません。
「よほど意識した場合」というのは、たとえばシュプレヒコールのように「パク、クン、ヘ!」のように言う場合です。軍隊での受け答えなどでも、このようになされるようです。
ふつうの発音では、「パク クネ」です。
一方、〔ng〕のあとの〔h〕は、上記よりは若干〔h〕が響きます。それでも実際に日本人が聞くと、ほとんど〔h〕は聞こえませんが。たとえば、「パク・チョンヒ」などは、多くの日本人には「パク・チョンイ」のように聞こえるはずですが、マスコミでは「パク・チョンヒ」と書く習慣が確立しています。
そもそも韓国語の〔h〕は、語頭では喉頭の摩擦が強くてかなり響く音なのですが、語中にくると相当弱化します。特に〔n〕のあとでは、ほとんど響かなくなるのです。
ただし、発音上弱化するとはいってもハングルでは「h」の表記は保ち続けています。
まとめると、「パク・クネ」は発音重視の表記、「パク・クンヘ」はハングル表記に対応させた綴り字表記、という位置づけになるかと思います。』
さっそく、詳しい解説をいただき、ありがとうございます。
つまり、「放送局と朝日・毎日・産経」は「耳から入った音を重視」で、「読売・日経」は「目から入った文字を重視」という立場の違いということですかね。
「Hepburn」と同じ苗字なのに、「ローマ字」を確立させた博士は「ヘボン」(耳から入った音を重視)さんで、「ローマの休日」で有名な女優は「ヘップバーン」(目から入った文字を重視)というのに似ていますね。あ、どちらも「ローマ」が共通点でもあるな、今、気が付いた。
それにしても「外国語の音」を「日本語のカタカナ」にうつすこと=外来語の表記というのは、面倒ですねえ・・・。
と、ここまで書いて、12月26日の「読売新聞」朝刊を見たら、なんと、
「パク・クネ」
に変わっているではありませんか!よく読んでみると、朴槿恵次期大統領の大きな写真の下に「おことわり」が出ていました。
「韓国の朴槿恵次期大統領の名前の読み仮名については、これまで、韓国語の1語ごとの発音をあてた『パク・クンヘ』と表記してきましたが、韓国語では、前後の語がつながって縮まる形で発音されることがあり、今後は、現地音により近い『パク・クネ』とします。」
ということで、大体、想像したとおりの経緯でした。
なお、12月26日の日経の朝刊は「リ・クンヘ」のままでした。
(2012、12、27)