新・ことば事情
4888「殺害を?に?踏み切る」
※今年(2012年)2月13日に書きかけたままだったものです。
報道のSデスクからの質問。
「『殺害"を"踏み切る』か『殺害"に"踏み切る』か、どっちでしょうか?容疑者の供述内容なんですが・・・」
「『殺害"に"踏み切る』、だろうね。『殺害する』は目的語として『○○を殺害する』だし、『踏み切る』の『踏む』は、目的語として『○○を踏む』となるけど『踏み切る』は単に『○○を踏む』のではなく、『○○の方向に進む』という意味だから、助詞は『に』を伴うんだろうね」
と答えました。これって、
「『靖国神社"に"参拝する』か『靖国神社"を"参拝する』か」
と似た問題ですね。結局、
「踏み切る」
という複合語の場合、「切る」は補助動詞なので「踏む」の前に付く助詞「を」を取りたくなりますが、実はこの「踏み切る」は「踏む」のではなく、
「舵を切る」「決断する」
という意味なので、「~に」を前に取らなくてはなりません。
複合動詞の語形になじみがあれば、問題なく「に」にするところですが、読み慣れていない人は、迷うのかもしれません。
最近、助詞を省略した「体言止め」の形を、見出しやスーパー、はてはリード部分の文章にまで使うからか、「助詞の使い方」があいまいになって来ています。
ただでさえ、そういう状況の中で、この「複合動詞の助詞の問題」は、一番弱いところを突かれているようなものだよなあ・・・と思います。
平成ことば事情406「"に"と"を"」、
平成ことば事情523「毎日新聞の終戦記念日の写真」、
平成ことば事情531「朝日新聞の終戦記念日の写真」、
平成ことば事情578「産経新聞の終戦記念日の写真」、
平成ことば事情607「日経新聞の日の丸の写真~完結編」
も、ぜひお読みください。