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『道浦TIME』

新・ことば事情

4879「黒塗り」

 

10月29日、大津市のいじめ事件で、大津市教育委員会が提出した資料の肝心な部分が黒く塗りつぶされていたことが報じられました。その際にニュースのナレーションでも、インタビューに答えた尾木直樹委員も、

「黒塗りで」

という表現を使っていました。意味はすぐに解りますが、私は、「黒塗り」と聞くと、

「黒塗りの車」

のような使い方が、まず思い浮かびます。黒く塗りつぶすことを「黒塗り」というのは、一般的な表現なのでしょうか?

『広辞苑』では、

「くろぬり(黒塗り)」=黒く塗ること。また、その塗った物。多く黒漆を用いるものをいう。」

として、樋口一葉の『花ごもり』から、

「黒塗り馬車」

という用例を引いています。『精選版日本国語大辞典』には、

「黒く塗ること。また、黒く塗ったもの」

として、用例は10世紀後半の『落窪物語』から、

「くろぬりの箱」

というのが出てきます。これも「黒漆」で塗った物でしょうね。

『デジタル大辞泉』には、

「黒く塗ること。また黒く塗ったもの。」

『精選版日本国語大辞典』と全く同じで、用例は作例で、

「黒塗りの椀」「黒塗りの高級車」

でした。『新潮現代国語辞典』には、

「墨や漆で黒く塗ること。多く黒い漆を用いるものをいう。」

と「黒漆」以外に「墨」も出てきて、用例は坪内逍遥『当世書生気質』から、

「外面(ウワベ)を飾る黒塗り車(グルマ)

樋口一葉の『十三夜』から、

「例(イツモ)は威勢よき黒塗り車の、それ門に音は止まった娘ではないかと」

とありました。樋口一葉がよく出て来るな。

『三省堂国語辞典』『新明解国語辞典』『明鏡国語辞典』『新選国語辞典』『岩波国語辞典』には「黒塗り」は見出し語にありません。大きな辞書しか載せてないんですね。

グーグル検索(116)では、

「黒塗り、車」=984000

「黒塗り、資料」=743000

そして、「資料」の「黒塗り」で思い出すのは、終戦後の教科書が墨で塗られたという出来事。そこで、

「黒塗り、教科書」=134000

「墨塗り、教科書」= 23900

でした。

ここからは推測ですが、もともとあった「黒塗り」と「墨塗り」が混用されて、

「教科書(→資料)の墨塗り(→黒塗り)

という言葉が生まれて来たのではないか?ネットではすでに「資料+黒塗り」は、「車+黒塗り」に迫る勢いで使われています。

その背景には、「墨」が筆記具としては一般的ではなくなったことと、「墨」と「黒」の漢字が似ていること、そして、いずれにせよ、

「黒く塗りつぶす」

という点では同じことなどから、「墨塗り」が「黒塗り」に代わっていったのではないか?と考えられます。

そういえば、

「黒く塗りつぶせ」

という映画か何かがあったな。・・・調べてみたら、なんと、

「矢沢永吉の曲名」

でした。作詞は西岡恭蔵。これは関係ないかな。

(2012、11、6)

2012年11月 8日 10:30 | コメント (0)