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『道浦TIME』

新・読書日記 2012_198

『あんぽん~孫正義伝』(佐野眞一、小学館:2012、1、15)

「あんぽん」とは、ソフトバンク・孫正義のかつての「日本の通名」であった「安本(やすもと)」を音読みした「あだ名」。本人は「アンポンタン」に通じるので、嫌がっていたという。

例の「週刊朝日」の橋下徹大阪市長の出自に関する連載は1回目で大問題になって、結局、連載中止になったが、あれを書いたのが佐野眞一。でもあまりにも悪意に満ちた筆致に、これまで佐野眞一の文体とは少し違うものを感じて、直近の「伝記」系統のこの本、「積ん読」になっていたものを取り出してきて、取り急ぎ読んだ。結論から言うと、文体は佐野のものであった。

この本によると、孫正義が震災以降、自然エネルギーに力を入れて100億円の寄付金やら10億円を投資して財団を立ち上げるというのは、ビジネスチャンスということも、もちろんあるだろうが、それよりも現在のビジネスである携帯電話(携帯端末)も「電気がなければ使えない」という、ごくごく基本的なことに改めて気づき、「エネルギー・インフラ」から握っていないとダメなのだと感じたからのように思えた。

400ページに及ぶ伝記は、孫正義とその家系の調査にも取材は広く及んでいる。孫正義の生まれた昭和30年代(1957年)の様子や、そこからいかにして日本一の金持ちになったか、その父祖は?とたどる差別と「血と骨」の物語でもある。表面的にはこの手の差別が見えなくなっている現代、また少しずつそういったものが出始めているような気もする。改めて歴史をたどることで、現在を分析する「よすが」となると思う。

余談だが、この本の中ではしばしば「孫がその家系の~」「孫が目指したのは」のように「孫が」と出て来たのだが、そのたびに「マゴ?なんで急にマゴが出てくるんだ?」と引っかかってしまった。「孫」という一文字の苗字は、日本ではやはり、なじまないのだろう。(というか、同音同字の「孫」(子供の子供)の方がよく使われるという事。)私は「孫」と言えば「孫基禎」を思い出す。ベルリン五輪マラソンの優勝者で"日本"代表、今の韓国の人だった。当時の朝鮮半島は"日本領"だったから"日本代表"。そんなことも思い出した。


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(2012、10、30読了)

2012年11月 5日 18:40 | コメント (0)