三浦しをんの「お仕事小説・自然篇」と帯に書いてあるが、「林業」編。舞台は三重県。三重県生まれの私としては、故郷の「山」のイメージを重ね合わせたりして読んだ。しかし、よくこれだけのものを書けるなあ。相当、密着取材しないと書けないのではないか?という林業の世界の話、しかも「男の世界」の話が出てくる。それでいて爽やかな青春小説。いいですよ、これは。2009年5月に単行本が出ている。
以下、ピックアップした所の書き抜き。
*(51p)「遊ぶな、ごるぁー」、(81p)「ごるぁ、勇気!」
~三浦しをんの小説によく出てくるこの「ごるぁー」。マンガの「ごくせん」のイメージが強いのだが、元祖は誰だろうか?
*(64-65p)「ひょうつく(心がつめたくなるような)」「すいたらもん(スケベ野郎)」
~三重県の方言のようだが、私は知りません。
*(69p)「嘘ついたらあかんねぃな」
~語尾が特徴。三重県でも、久居とかちょっと愛知県に近いところは「~やにぃ」のように「な業」の語尾に特徴がある。これ、結構かわいい。
*(69p)「空には星が輝いている。星座を見つけるのも困難なほど、たくさんの星だ。慣れない豪華な夜空に、目が回ってきた。」
~わかる、わかる。私も生まれて初めて「流れ星」を見たのは、三重の田舎でだった。それにしても、上手い表現だなあ・・・。
*(76p)「皆伐(かいばつ)ってなんですか」「ある区画に生えている木を、すべて切りだすことや」「皆伐すると、切りだすときの手間はかからんが、その斜面はハゲちゃびんになってしまうやろ。『環境、環境』てうるさいご時世やし、山崩れが起きる危険もある。いまは、切りだす木を選ぶ間伐(かんばつ)のほうが主流やな」
~林業用語をうまく解説。初めて知った言葉です。
*(77p)「この斜面に生えたボヤ(灌木=かんぼく)」
~これも初めて知った林業用語。灌木のことを「ボヤ」というのか。じゃあ、「ボヤ」が焼けたら「ボヤボヤ」か?
*(77p)「皆伐したあとにシダがはびこったら、木も生えない。きちんと植林しつづけていけば、山の環境は守られる。」
~そうなのか。ちょっと「林業組合」の広報のような感じも・・・。でも正論。
*(80p)「巻き落とし」=「斜面に倒され折り重なった灌木に、棒を差しこむ。テコの原理でぐっと持ちあげると、倒木は下方にあった倒木を巻きこんで、くるりくるりと斜面を下りだした。巌さんは棒一本で、斜面にあった倒木を巧みに操る。太巻きの寿司みたいに、ひとかたまりに丸めこんでしまった」
~これが「巻き落とし」か。
*(81p)「表土は栄養たっぷりの、山の命やで!命を蹴立てて歩くやつがおるか!」「土がやわらかいのは、手入れが行き届いていて栄養たっぷりの山の証拠や」
~「表土」は・・・そうなのか。でも被災地では「表土」の「除染」をしなくてはならない・・・。
*(101p)「狭い村では、建前と噂話が生活の潤滑油なんだ」
*(110p)「どうどうと鳴る夜の山には」
~これは「宮沢賢治」ですね。そんな世界なんですね。
*(119p)「どの木を伐倒(ばっとう)し、どの木を残すのか、判断は難しい。」
~そりゃ、そうでしょうねえ。
*(132p)「木馬道(きんまみち)」「木馬ちゅうのは、橇(そり)やな」「材木を積んで、人力で引っ張る橇(そり)や」
~「木馬」=「きうま」が訛って「きんま」か。
*(132-133p)「本来、山仕事は分業制なんや。(中略)俺たちの班は、基本は伐倒担当や。杣(そま)やな。杣の中でも、ヨキみたいに斧一本で仕事をするもんのことは、特に木こりて呼ぶ。倒した木を割って材木にするのは、木挽(こび)きちゅうて、また別の担当がおった。丸太や材木を山から運びだすもんのことは、"ひょう"ていうた。修羅を組んだり、木馬道を作ったりするのは、主に"ひょう"の役目やった」
~勉強になりますー。
*(151p)「なっともしゃあない(なんともしかたがない)」「『なあなあ』かつ『なっともしゃあない』で物事にあたっていく覚悟と強さがないと、生まれる人数よりも死ぬ人数のほうがずっと多い神去村では、やっていけないのかもしれない」
~「なっともしゃあない」は、昔、聞いたことがあります!
*(166p)「祭壇に刺してある木の枝だ。つやつやした緑の葉をいっぱいつけている。『"しきび"や』とヨキは言った。『墓参りのときに持っていく。おもえんとこでは使わんか?』「香りがあって長持ちするでな。ここいらでは墓地に植えてあって、葬式や法事の時に切って来るんや」
~「しきび」知ってまーす!お墓参りでは持っていきます!しきびの樹を枝から切って持って行きました!
*(194p)「"もんどり"ちゅうて、ウナギを捕る罠(わな)や」
~これも知っている・・・ような気がします。
*(195p)「餌は?」「そんぐらい、ウナギのほうでなんとか算段してもらわんと困る」
~こういったギャグのような言い回し、亡くなった祖父がよく使っていたような気がします・・・。ちょっと、懐かしい。ユーモアですね。
*(213-215p)山太「綿菓子買(こ)うて」「山太のお目当ての綿あめ屋もあった」「いつ見ても、綿あめができあがる様子は魔法みたいだった」「おじさんが目の前で作り上げたばかりの綿あめを食べたいらしい」「戦隊物の綿あめの袋が欲しかったけどなあ」「特大の綿あめを作ってくれた」
~三重県の子である「山太」は「綿菓子」と言い、横浜出身の主人公は「綿あめ」という様子が書き分けられているのはすごい!と思った。三浦しをんの言葉に関する感性の鋭さを感じます。
*(217p)「空はいつのまにかすっかり暗くなり銀色の星がいっぱいに輝きだしていた。『うわあ』 南の山のすぐ下を、神去川が闇に白く流れている。見上げれば映したように、空にも大きな星の川。『天の川ってすげえよな。俺、村に来るまで見たことなかったんだ』 だけど山太は、ガキだから星なんか見ていない。」
~このあたりの表現もリアルで、よく伝わってくる。ロマンチックが、現実に地に足を付けている、そういった感じ。
*(265p)「ぶつべし(つべこべ)言われる筋合いはないねぃな」
~この「ぶつべし」という方言は、知りません。
*(298p)「切断面(木口(こぐち)って言う)」
*(315P)「ふだんよりも心臓がバクバクしてるのに変わりはないんだけど」
*(337-338P)「夕方から清一さんの家で"呼ばれ"が開かれる。呼ばれってのは、早い話が宴会」
~「呼ばれ」「お呼ばれ」は、よく耳にした。「ほんなら、呼ばれていこかあ」「どーぞ、召し上がってだーこ(頂きましょう)」というような感じかな。
いやあ、満足しました。
続編があるらしいですよ。楽しみ。
star5
(2012、11、12読了)