新・読書日記 2012_177
『ADは仕事を選ばない』(近藤五郎、青松書院:2012、9、20)
実は著者は会社の同僚。まさかこんな本を書いていたなんて!全然知らなかった。
アメリカ在住の先輩からのメールで知った。帯には、
「話題の新人賞『このミステリーがすごい!』参考委員が絶賛したエンターテインメント小説」
の文字が。ミステリーなのか!?と著者に直接聞いたら、
「ミステリーじゃないです」
と。え?・・・。
それと帯の文字、「『参考委員』じゃなくて『選考委員』では?」と後で思った。
表紙の写真のようなイラストのつぶらな瞳の女性の姿を見ていると、タイトルの「AD」を「AV」と読み間違ってしまうような感じがした。
413ページの大著、読んでみての感想を一言で言うと、
「おも(しろ)かった!」
です。電車中でも読んだので、腕も鍛えられました。413ページもあって、しっかりした造りの大判の本なんです。
ストーリーは面白く、著者の経験も反映されてテレビの世界が描かれていて面白いし信用も置ける。よく、映画や小説でテレビの世界を書いてあるものには、僕らが読んでたり見たりして、「そんなバカなことはない」ということがある。たとえば、取材用のENGカメラのはずなのに、中継車もなく中継しちゃうとか。今ならロケポタなどの機器があって、できないこともないが、10年ぐらい前だと絶対に無理!とか。この小説は、そういうのはありません。しっかりいしています。
ただ「読みやすさ」という点に関して、ちょっと問題かなと思ったのは、「滾(たぎ)った」「蟀谷(こめかみ)」「飛礫(つぶて)」「嗜(たしな)む」「掻(か)き毟(むし)る」「鳩尾(みぞおち)」「鷲掴(わしづか)み」などなど、矢鱈(やたら)と難しい漢字を使っている。漢字の勉強にはなる。また、矢鱈と(わざと漢字にしてますが)「カタカナ」を使う点。方言の語尾を「できヘン」「いうとったズラ」など、カタカナにするのはよくあるし、効果的だが、それ以外にも「オランとこ」「ウチンとこ」「村松ッアン」「オバチャン」「オッサンらこんなエエもんをタダで見たらアカン」「言われたナイやろな」など、カタカナで書かない方がわかりやすいところに、あえてカタカナを使っていることが結構多く、読むときに一寸つっかえてしまった。多用しすぎると「ウザい」。昔の文章には、この手の表記がよく見られたし、現在も東海林さだおの漫画にもあッたンだけどネ。(70代以上の人の文章の特徴だと思います。)それと、現代を舞台にした若者が主人公であるなら、「欠食児童」という言葉は出てこないと思うンだけど。私ら世代が親から聞いて覚えているだけで、今の若者は知らんだろ、この言葉。
野球の場面で、敵の静岡高校のピッチャーのニックネーム、「赤石の熊」は、後半の語呂が悪い「赤石の暴れ熊」とか「赤石の○○熊」とした方が、「熊」だけよりバランスが取れる感じがした。
こういうのを読んでいて、ついつい文字のチェックとかしちゃうんですが、188ページの1行目が「取り調べ」なのに2行目が「取調べ」というのは、「取り調べ」に揃えるべきですね。それと、338ページ「午前十時半に火蓋が切って落とされた」は、著者にしては単純ミスか。「火蓋」は「切って落と」さない。「火蓋を切る」です。「切って落とす」のは「幕」
です。ゴメンね、細かいこと書いて。
全般に言うと、主人公たちに気持ちを重ねることができて、グイグイ読めた。面白い作品と言えます。でも、もう少し軽くて薄い本の方が、持ち運びやすいです、近藤クン・・・。