新・ことば事情
4854「知らしめす」
「ミヤネ屋」の「世界電波ジャック」のコーナーで、スペイン・バスク地方を取材しています。バスクと言えば美食の町、グルメの街として知られています。
その放送前の原稿チェックの時に、「一応確認」と思って調べたのは、
「バスク地方を美食の町として世界に知らしめたのは」
という一文です。この、
「知らしめた」
について一応チェックしてみることに。
「知らしめた」というのは過去形ですから、元の形は、
「知らしめる」
ですね。ところが辞書を引いても「知らしめる」は載っていないのです。代わりに載っているのは、
「知らしめす」
です。しかし、もし原型が「知らしめす」であれば、過去形は、
「知らしめした」
と「し」が入った形になるはずです。しかし「知らしめした」と言うと、なんだか「し」がひとつ多いような気がします。そこでもしかしたら「知らしめた」と、「し」を一つは省いちゃったのではないでしょうか?たとえば、「到着する」+「次第」は、本当は、
「到着し次第」
となるはずなので、ふつうは、
「到着次第」
と言ってしまうのと同じ現象が起きているのではないでしょうか?
『精選版日本国語大辞典』を引いてみると、
「しらしめす(知召)」=(動詞「しる(知)」に上代の尊敬の助動詞「す」の付いた「しらす」に、さらに尊敬の補助動詞「めす」の付いたもの)お納めになる天皇が統治なさる。しろしめす。」
統治の「しろしめす」も、「しらしめす」と同じ言葉だったのですね!
この「知らしめす」は、
「知らし召す」
なのだそうです。「めす」は尊敬語かあ。しかも「知らし」の「し」も尊敬のようです。
うーん、勉強になった!
(追記)
NHKの原田邦博さんからメールを頂きました。
『「知らしめる」は、「知ら」+「しめる」の連語です。
このため多くの辞書は見出しには採りませんが、「明鏡国語辞典」だけは採用しています。
「しめる」は動詞の未然形に付いて、「~させる」という使役の意味になります。「私をして、言わしめれば」も同じ用法です。』
なるほどそうか、「連語」か。連語はあまり辞書に載らないのか。「明鏡国語辞典」を引いてみると、たしかに、
「知らしめる」
が載っていました。でも連語でも、これだけひろがって使われる言葉になっているのだから載せるべきじゃないのかなあ、他の辞書にも。
Google検索(10月15日)では、
「知らしめる」=122万0000件
「知らしめす」= 5670件
「知らしめた」=272万0000件
「知らしめした」= 1万0300件
でした。ネット上は圧倒的に「知らしめる」「知らしめた」ですねえ・・・。
(2012、10、15)