新・読書日記 2012_163
『聞き書 野中広務 回顧録』(御厨貴・牧原出編、岩波書店:2012、6、28第1刷・2012、7、25第3刷)
2800円+税という高額な分厚い本なので、買うか買うまいか、悩んでいたのだが、本屋さんで実物を手に取りパラパラと見てみて「これは買いだ!」と即決。阪神大震災後の「第7章」から最後までを先に読んで、その後、最初から第6章までを読んだ。
この本の中で、野中は小沢一郎のことを「自ら責任を取らない政治家だ」と言っている。
白河上皇の院政、インドのソニア・ガンディーの政治など、矢面に立たず、傀儡の首相・天皇・摂政関白を立てることで、その支配期間を長引かせるということは、古来あった。
小沢さんは、「竹下七奉行」の中で、一番弟子と思っていたら竹下さんは首相になった時に小渕さんを官房長官にして小沢さんを官房"副"長官にした。これで竹下さんに対する不信感ができたのではないかと野中さんは話している。竹下・小渕は早稲田・雄弁会出身、小沢は慶應出身、ということももしかしてあったのかな?
野中さんは全部本当のことをしゃべっているとは思えないが、「ウソ」もついていないと思う。「言ってはいけないことはしゃべっていない」ということで。でも「言ってない」けど「言っている」部分もあって、たとえば当時の竹下首相が小沢さんとこっそり会うときに、東京駅前でやっていた「劇団四季」のミュージカルを観に行くようなふりをして、公演用のテントの横にあるスタッフ用テントでこっそり会った話では「間に立ってくれる人がいて」とその人の名前は出さないのだが、「劇団四季だから。わかるだろう」と。
あ、浅利慶太か。
言ってるのと同じだけで言ってない、ということもあるのですね、大人の(政治の)世界には。あと、こんなことも言っている。
「安倍晋太郎先生は『よく世間で俺は岸伸介の息子みたいに言われるけど、俺の親父は昭和一七年大政翼賛会の時に、それに反対して反戦政治家として出た安倍寛なんだ。』ということを胸を張って言っておられたことを私は忘れません。そのことを私は安倍晋三君にも申し上げたことがあるのですが、安倍晋三君は残念ながら、そういうお父さん、あるいはおじいさんの遺志を継いでくれなかったのかな、という気がして、いま思い出しております。」
これは数年前の発言だが、そんな安倍さんが、自民党で再び総裁に選ばれた。いろいろ考えさせられる。
また選挙制度については、
「たしかに中選挙区の広さには問題もある。僕のところは日本一だったんだから。南北一七0キロあったんですから、非常に広いし自分の選挙区としては扱いかねるぐらいのところでした。だけれども、やはり五人出ることによって、自民党が二人になったり一人になったりする選挙区もあれば、三人になる選挙区もある。そういうことによって、社会党も出られるし、民社党も出られる。そういう民意が活かされていく。民意が反映して国政になるんだから。それが一人しか当選しないということになったら、あとの民意はすべて封殺される。これは国家のためにはいい制度ではない。しかも世襲制度をより長く、強くしていく。そう思いましたね。」
野中さんの言う「民意」と、橋下さんの言う「民意」は、言葉は同じだけれでも、明らかに「指している範囲」が違いますね。それによって、全然、意味も違ってきているように思う。
それと、毎日「首相の動き」の小さな新聞記事をスクラップしている私にとって興味があったのは、
「このごろの新聞の首相動静欄でも『秘書官と食事』というのがあるでしょう。これは、秘書官同士が飯をとっていて、総理は、本当の目的の人、表に出してはいけない人と会ってるわけです。」(別途、本当の目的があるのですね)「『秘書官と食事』というのは、みんなそうです。奥の院があるんです。」(麻雀をやるときもそんな感じで、食事の名目で行くんだけれど、実は裏でそういう人たちと会っているという感じになっていたんですね。)「そうだったね。僕はそう感じた。だから、階段がいくつもあったり、階段と渡り廊下で座敷に行ける場所があったり、そういう料理屋が選んであったもの」
どうです?おもしろいでしょ!?こんな話が満載なんです。3000円出して野中さんの話を何回も好きなだけ聞ける(読める)と思えば、安いものではありませんか!