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『道浦TIME』

新・ことば事情

4841「自転車操業」

 

5年前に出た拙著『スープのさめない距離』(小学館)で、「自転車操業」という言葉について書きました。そこでは、「自転車操業」について、

「常にペダルをこぎ続けないと倒れてしまう(=倒産する)」と、会社の経営状況を自転車にたとえて、余裕なく働いている様子を示したもの。転じて売上金の全部もしくはその多くを、そのまま仕入れ金にあててかろうじて操業を続けること」

と書いて、この言葉を作ったのは、「評論家の臼井吉見氏」としています。その根拠として、1960(昭和35)年に『現代用語の基礎知識』が開いた座談会(臼井、大宅壮一ら4人が参加)で、臼井自身が「造語」についてこう述べている、と記しています。

 

「ぼくは一つだけつくったですよ。いまでも使われている。そして、ぼくがつくったということはおそらくだれも知らないで使われているのはこの『現代用語』の日本経済と社会風俗の項にとり入れられている"自転車操業"というのがそれです。あれは『改造』の座談会にぼくが言い出したことです。『改造』で、中野好夫さんと、大宅さんと三人でムダ話をやったでしょう、あのときに言い出した。いまや、つくり主がだれかわからぬくらいに・・・。」(現代用語の基礎知識編『20世紀に生まれたことば』新潮文庫)

 

また、梅花女子大学の米川明彦教授は、「自転車操業」に似ているけれどそれよりも古い言葉を、1955(昭和30)年に出た『はだか随筆』(佐藤弘)の中から見つけています。それによると、

 

『「先日、高島屋の常務の川勝氏に会ったのですが「どうです。デパートは儲かりますか」と聞いたら、「デパートは日本経済と同じく自転車経済ですよ」といわれた。何んのことですか」と反問したら、「こいでる間はいいが、とまったら、すぐ倒るから」と。』(この部分は1953【昭和28】年11月発表)

 

米川先生は、2001725日の読売新聞大阪夕刊の「ことばのこばこ」というコラムで、

『これから察するに「自転車操業」という言葉はまだ使われていなかったようだ。「自転車経済」から「自転車操業」ができたのだろうか』

 

という疑問を呈しています。

また、「語源」ではないですが、こういう風に使われているという例で、赤瀬川原平の『日本男児』(文春新書)を読んでいたら、「自転車操業」が出てきました。

「やはり世の中のみんなの気分が、じわじわとデジカメ、つまり電子機器の方に流れたのだろう。これは人間の世の中のラストスパートみたいに感じられる。あるいは自転車操業といってもいいが、そうするほかないというか、そうなってしまうようなところに、世の中がきているのを実感する。」

「現在から現在への自転車操業とはそういうことなのだった。」

赤瀬川氏は、デジタル化で加速する世の中全体を指して「自転車操業」と呼んでいます。さすが「老人力」の発案者ですね。

そして、ことし(2012)5月25日に、かのアインシュタインの言葉で、

 

「人生は自転車のやうなものだ。漕ぎつづけなければ倒れてしまう。」

 

というのにぶち当たりました。(本なのか、テレビなのか、記憶にないのですが。)

これってまさに「自転車操業」なのでは?

そうすると、「自転車操業」という言葉の発案者ってアインシュタイン?「自転車操業」は「相対性理論」?謎はさらに広がりました・・・。

(2012、9、23)

2012年9月25日 22:02 | コメント (0)