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『道浦TIME』

新・ことば事情

4825「『情報』という言葉」

『現代史のリテラシー~書物の宇宙』(佐藤卓己、岩波書店:20121131刷)という本を読んでいたら、

「情報」

という言葉の語源について書かれていました。数年前、知り合いに、

「江戸時代には『情報』という言葉はなかった。一体いつから使われるようになったかが知りたい」

と聞かれたことがあって、答えがわからずそのままになっていたのですが、こんなところに答えが!

それによると、「情報」という言葉は、

「敵情報告」

略語として明治時代に創出された「軍事用語」で、初出例は、

「陸軍参謀本部が1876年に訳した『仏国歩兵陣中要務実地演習軌典』」

であり、新聞では「日清戦争報道」から使用が始まったのだそうです。

ということは1894年からか。まだ118年の歴史しかないのか。ずいぶん新しい言葉なんですね「情報」って。

森鴎外訳のクラウゼヴィツツ『大戦学理』には、

「情報とは、敵と敵国とに関する智識の全体を謂ふ」

とり、「諜報(intelligence)」の意味で使われ始めたといいます。明治期の英和辞典で「information」の訳語には、「消息・知識」が当てられていて、「情報」は見当たらないそうです。一般の国語辞典に「情報」が登場するのは、1904年に日露戦争のロシア人捕虜を管理する「俘虜情報局」が設置された後だそうです。

1918年にイギリスで敵国への戦時宣伝を統括する国家機構、

Ministry of Information

が設立されましたが、当然ながら日本では「知識省」ではなく実態に即して、

「情報省」

と意訳され、ここに、

information=情報」

の翻訳が成立したのだそうです。ということは、まだ100年たってないんだ・・・。

以上、佐藤先生の本からの「情報」でした!

(2012、8、27)

(追記)

「戦争報道の内幕」(フィリップ・ナイトリー著・芳地昌三訳、中公文庫)を読んでいたら、

「英宣伝機構の発展」という項がありました。それによると、第一次世界大戦の時期に、

「イギリスの宣伝機関は次第に発展を遂げ、やがて世界の羨望の的となった。当初は議会戦争目的委員会で発足し、やがて保険局長のオフィスに属するウェリントン・ハウス内に設置された小さい部門として動きはじめた宣伝活動―――「外務等機密情報部」の歳費で賄われたーーーだったが、イギリスは終戦までに、これをレッキとした宣伝機構に仕立て上げていた。約二0年後ゲッベルスは、これをモデルにドイツ版宣伝機関を創設したのである。」

「イギリスでは、議会戦争目的委員会と急場しのぎにつくり上げた報道部とは発展的に解消して情報局へと拡大し、最終的には情報省(長官はビーバーブルック卿)となった。同省には、互いにライバル関係にある部門があまりにも多かったので、今日でもそれを分類するのは困難である。」

あ、そうか「MI5」とか「MI6」とか、あれですね!スパイ映画だな。「保険局」のオフィスに「情報」が必要だったのは、「保険」の料率を決定するには「情報」が不可欠だったのですね。ナポレオンの戦争の時代に、いち早く「情報」(=戦況)を手に入れて巨万の富を築いたのが「ロスチャイルド家」と聞いたことがありますし、その時代(1700年代の終わりから1800年過ぎ=18世紀後半から19世紀初頭)には、すでに「情報」の実態は、欧州では確立されていたということでしょう。しかし、同時期の日本は江戸時代、まだ「情報」という言葉は伝わっていなかった(実態はあったかもしれないが)のでしょうね。

英国の「情報局」「情報省」あたり訳すのに、日本でも「情報」という訳語が生まれたのでしょうね。

(2012、9、4)

2012年9月 4日 19:47 | コメント (0)