新・ことば事情
4800「えりごのみか?よりごのみか?」
食堂で昼飯を食べていたら、ほかの番組のスタッフから質問を受けました。
「『えりごのみ』と『よりごのみ』、両方あると思うのですが、どちらが正しいんでしょうか?」
なるほど、どちらも耳にしますね。おそらく、と断ってから、
「『えりごのみ』の方が古い言葉で、『よりごのみ』は新しい言葉。でも、実際は、両方使われているね」
と答えました。そのスタッフは、「そうですか、すっきりしました」と喜んでいましたが、実は私は、
「本当にそうなんだろうか・・・?」
とちょっと不安になって、席に戻ってから『精選版日本国語大辞典』を引いてみました。すると、「えりごのみ」の用例は、1889年、坪内逍遥の『細君』から、
「邸も売払ひ、山の手に移りしが、<略>尚ほ借家の体裁に選好(エリゴノミ)をなし」
というもの。「よりごのみ」の用例は、1895年、柳家禽語楼の落語『墓違ひ』で、
「然んなに貴娼が病気の撰(ヨ)り好みを為すっちゃア困ります」
というもので、どちらも19世紀後半(明治時代)の用例でした。
そこで、今度は「える」「よる」という動詞を調べてみると、
「える」の用例は、なんと720年『日本書紀』や、10世紀終わりごろの『枕草子』、一方の「よる」の方は、1582年(天正10年)の『多聞院日記』でした。それで言うとやはり「える」の方が「よる」よりは古い言葉と言えそうですね。
良かったです。
なお、私は「える」か「よる」か、「選り好み」は致しません。両方使います。