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『道浦TIME』

新・ことば事情

4776「『とは』のつく言葉、つかない言葉」

 

20092月に書き始めたときは「平成ことば事情3700」でした。ブログに移るかどうかの頃ですね。そのまま寝かしておきました】

 

2009210日に放送した「情報ライブミヤネ屋」「ビューティフル・ピープルネット」というものをご紹介しました。「美男美女」だけが集まるサイト・サークルなんだそうです。

その原稿の中で

*美しさを保つワケとはいったい・・・

*サイト誕生のワケとは・・・

*その斉藤社長の暮らしぶりとはいったい・・・

というふうに、

「〇〇とは(いったい)・・・」

という形が3回も出てきました。「サイト誕生のワケとは」は、主語がクラブの会長だったので、

「サイトを誕生させたワケとは」

に変えました。

それとは別に「とは」の「と」が気になりました。「と」が付くと、強調される気がします。しかし、謎解きをするものは、その前に書かれているもの、つまり、

「美しさを保つワケ」「サイトを誕生させたワケ」「斉藤社長の暮らしぶり」

です。それが「いったいどういうものか?」という答えがその後に続くのでは。

ただ、「とは」と付く時は、その前に出てくるものが「知られていない」ことが前提です。たとえば、

「ヒチャギラネシテス(※)とはいったい?」(※今、適当に作った名前)

のように「ヒチャギラネシテス」が誰にも知られていない時に、

「とは=というものは」

ということで「伝聞」の形で「知らないことを強調」しているわけです。その質問で出てきている「モノ・コト」自体が「なんのこっちゃ分からない・知られていない時」、また「答えが想像を絶する時(=想像を絶することを話し手は知っている時)」には、

「『とは』は使える」

と思うのですが、質問で出て来たモノ・コトが「ある程度想像が付く時、答えを話し手が知らない体(てい)の時」には使いにくいのではないか?と思いました。

なかなか説明しにくいのですが、要するに最初の「*」の3つに関しては、「と」を取って、

*美しさを保つワケは(いったい)・・・

*サイト誕生のワケは・・・

*その斉藤社長の暮らしぶりは(いったい)・・・

としたほうがスッキリした良い文になると思う、ということです。

「とは」は「強調」なので、あまり乱発すると効果が薄れます。「ここぞ!」というところで使うといいと思います。

なお、「北京のテレビ局隣接のビル火事」のQカードの原稿でも、

「カメラが見たものとは?」

というふうに「とは」が出てきました。「とは」は「強調」と同時に、その「とは」に続くものの範囲を「限定」します。答えがなんなのか?と思わせるときには、限定しない方が、想像が膨らむと思うのです。その意味で、ここも

「カメラが見たものは?」

の方が適切だと思いましたので、そのように直しました。

 

その翌日、出社途中の電車の中で、「とは」について考えました

「『とは』は、その言葉も中身も知らないことについて謎解きをする枕詞。

『は』は、名前は既知のものの、知らない中身・内容についてその後、謎解きする。

『とは』のあとには、あらかじめ用意された答えの中から選択する感じ。わけとは、次のうちどれ?1番、2番、3番?

それに対して『わけ』は、記述式解答のよう。』

 

出社するとナレーション原稿が待っていました。きょうは「政府紙幣」についてです。その原稿の中に、また「とは」が出現!

「政府紙幣とは、一体何なのか?」

この「とは」は問題ないですね。「政府紙幣」の名前は聞いたことがあっても、その内容についてはよくわからない。それに対して「とは」を使っているのですから。「と」を省いて

「政府紙幣は、一体何なのか?」

とすると、意味が伝わらなくなりますね。そして、もう1回出てきた「とは」は、

「その驚きの発行額とは?」

というものですが、これは問題の「とは」です。

「その驚きの発行額は?」

というふうに「と」を省いても意味が分かります。より分かりやすい。

「発行額」と言った時点で、そのあとに出てくるのは「金額」と分かります。分からないのは、

「具体的な金額」

です。「政府紙幣」の場合は、どのような具体的な説明が出てくるかが、今ひとつ分からない。その違いですね。

落語の「千早振る」で、

「千早振る 神代もきかず 竜田川 からくれないに 水くくるとは」

の意味をこじつけで説明していって、うまく説明できたと思ったら最後に、

「『とは』ってぇーのは何ンですかい?」

と聞かれて、苦し紛れに、

「え!・・・そりゃぁおめぇー・・・千早のお母さんの名前だ」

というのが"オチ"(サゲ)ですが、あの"オチ"を思い出しました。

(2009、2、11) 

(追記)

その後も「とは」は、いっぱい出てきています。最近「とは」に関しては不感症になりました。メモを残しておきます。

 

×「はたしてその正体とは?」→○「はたしてその正体は?」

×「はたして大物スターはいったい誰?」→○「はたして大物スターとはいったい誰?」

 

2009331日「スッキリ!」

「一体彼女の真意とは?」

マラウイで二人目の養子縁組をするマドンナが「デービッドにはマラウイ人の兄弟が必要です」と。

同じく「スッキリ!」で。

「れっきとした新聞社がこんなうそ記事を載せた理由とは?」

 

2009331日「スーパーモーニング」のニュースのタイトルスーパー

「食卓からお米が消える!?日本農業の危機とは?」

これはOKか。

 

200941日放送「ミヤネ屋」

スーパーは「その思惑とは?」

ナレーションは「その思惑は、一体?」

 

既知の情報は「が」、未知の情報は「は」。

 

「とは?」は「質的な疑問」、「は?」は「量的な疑問」。「その年俸とは?」と言えば、お金ではなく、「物」とか「土地」とか「現物支給系」で、「その年俸は?」というのは「金額」。つまり、「とは」には意外性があり、「は」には意外性がない。

 

 

2012223

「入院から4か月、最近のけいこさんの様子とは?」

この「とは」はおかしい!

「謎とは?」「秘密とは?」はオーケー。どう違う?

「原因とは?」はダメ!「希望とは?」はオーケー。「魔球とは?」「勉強法とは?」「ダイエット法とは?」はオーケー。「その座席とは?」「特急とは?」「自動車とは?」はダメ!「その本とは?」はオーケー。

 

2012618

「オウム真理教の今とは?」→「今は?」でいい。「現状とは?」は可。「状態」ならば「状態は」。その言葉の内容説明ならば、「とは」。

 

2012625

「人気の秘密とは?」→「人気の秘密は?」でよい。「子育て法とは?」は「とは」でいい。

 

 

(追記)

アメリカ在住のI先輩からメールが来ました。「とは」に関しての記述が面白かったと。それで、落語「ちはやぶる」に関しては、

「ぼくの持ってる柳家三之助のでは、下げは、『とは』は、『千早の本名』だったということになっています。ウィキペディアの記事でも、下げは『千早の本名』ということになっていました。違うバージョンがあるのかもしれませんが、念のため。」

ありがとうございます。そちらの下げも聞いたことがあるような気がします。私の「おばあさんの名前」は、小学生の頃におじから聞いた「下げ」だったように思いますが、ちょっと、取ってつけた感じですね。

(2012、7、20)

 

 

 

 

(2012、7、17)

2012年7月18日 15:39 | コメント (0)