新・ことば事情
4756「ガリ股」
オウムの高橋克也容疑者が逮捕された際に、歩き方が、
「ガニ股」
だったことも、容疑者特定の一つになったそうです。その話をしていたときに「ミヤネ屋」の川田アナウンサーが小声で、
「あれって、『ガリ股』ですか?それとも『ガニ股』ですか?」
と言ったので、みんな「ドッシェー!!」とずっこけました。
「そりゃ、『ガニ股』しかないやろ!」
「私ずっとどっちか分からなくて、『ガリ股』と『ガニ股』の中間の音で発音していたんです・・・」
そ、そんなヤツがおるんか!?
Google検索してみましょう。(6月18日)
「ガニ股」=80万0000件
「ガリ股」= 5540件
当然ですが、圧倒的に「ガニ股」です。でも、5000件以上も「ガリ股」があるんだな。例の「Yahoo智恵袋」で見ると、「ガリ股」の語源を聞いていて、その「ベストアンサー」では、
「蟹の歩き方に似ているから蟹股(がにまた)ですが、東京では『がりまた』とも言う」
とあるではないですか!じゃあ、「ガリ股」は「東京方言」なの?と思って別の「がり股」について書かれたものを見ると、今度は、
「がり股って大阪では言うんだね~」
と書かれています。うーむ、これはいったいどういうこと?
辞書を引きましょう。
「がにまた(蟹股)」=両脚がO字型に曲がっていること。(広辞苑)
「がにまた(蟹股)」=両脚がひざのところで外向きに曲がっていること。また、その人。O脚。(明鏡国語辞典)
「がにまた(蟹股)」=両脚がO字形に曲がっていること。O脚。また、その人。(精選版日本国語大辞典)
「がにまた(蟹股)」=両足がひざのところで外側に曲がってO字状となっていること。(デジタル大字泉)
というように「がに股」は載っていても「がり股」は載っていません。
牧村史陽『大阪ことば事典』を久々に紐解くと、載っていました「がに股」。
「ガニマタ」=蟹股であろう。蟹の肢のようにひざの部分で左右に開いて垂直に伸びぬ脚をいう。
でも「がり股」は載っていませんでした。「大阪方言」というわけでもない。
こういう時には、これかな?と思って『新しい日本語』(井上史雄+鑓水兼貴)を引いてみましたが、これは若者の新しい表現に強いようで、こういったものはあまり載っていないみたい。じゃあ、これは?と思って『日本俗語大辞典』(米川明彦)を引くと、なんとビンゴ!載っていました!
「がりまた(がり股)」=(「がにまた」の変化した形)「がにまた」に同じ。「がにまた」の誤った形。◆『今年竹』かも・七(1919年)<里見弴>「内股が摺れるか、がり股に動(ゆる)ぎ出たのがこヽの女将で」
うーん、さすが米川先生!「がりまた」まだチェックしているとは!里見弴が1919年に使っていたのですね。白樺派の言葉か?
ウィキペディアによると、里見弴は横浜生まれですが、
「大阪の芸妓・山中まさと結婚、その経歴が『今年竹』『多情仏心』などの代表作に現れている」
というのですから、この「がり股」は、山中まさの、大阪の言葉なのかもしれません。
念のため平仮名も検索してみましょう。
「がに股」=61万4000件
「がり股」= 5330件
でした。