新・ことば事情
4754「ご支度か?お支度か?」
東京への出張帰りの新幹線の車内アナウンス。
「まもなく名古屋です。どなたさまもご支度をしてお待ちください」
あれ?これって、
「ご支度」
ではなく、
「お支度」
ではないのでしょうか?三木稔の『レクイエム』の歌詞では、
「どなたも お支度は 喪服に花束」
だったと思います。「したく(支度)」は和語なのでしょうか?漢語なのでしょうか?
「和語」であれば「お」、「漢語」ならば「ご」が付くのが原則です。(『NHKことばのハンドブック第2版』28ページ参照)
これを調べるには『新潮現代国語辞典』ですね。「漢語」であれば見出しが「カタカナ」で書かれているはずです。と思って引いてみると・・・。
「シタク」
あ、カタカナ・・・ということは「漢語」なのか!「ご支度」でいいのか!
Google検索してみました(6月17日)
「ご支度」= 4690件
「お支度」=38万5000件
圧倒的に「お支度」ですね。ネットの有名なYahoo智恵袋にも去年の1月に、
『「お支度」と「ご支度」、どっちが正しいんですか?』
と投稿されています。それは、
「昨日、電車に乗った時、車掌が『お降りのお客さまはお支度をお願いします』と言ってるのを聞いて『お支度?ご支度じゃないの!?』違和感を覚えました。(中略)ちなみに帰りの電車の車掌は『ご支度』と言っていました、一体、どっちが正しいんでしょうか。それともどっちも正しいんでしょうか」
というものでした。この投稿した人は、私とは全く「逆」の感覚をお持ちなんですね。「ベストアンサー」に選ばれたのは、
「その場合、『お支度』のほうが正しいですね。身支度を整えてもらうようなことは『お支度』と言います。例えば、結婚披露宴なんかで、終了後、衣装なんかを元の姿に戻してもらうことを『ご引き上げ』とは言わないでしょ?普通は『お引き上げ』って言うから。」
というもの。うーん、どうなんでしょうか。あまり根拠がないような。
「Weblio類語辞書」というサイトでは、「ご支度」と載っていて、
「前もって備えることを丁寧に言う語」
として、
「ご用意・ご支度・ご準備・お備え」
が出ていました。
うーん、でもいくら「漢語」でも、もう「和語化」したものは「お」でいいんじゃないでしょうか。
「お電話」
の例もあることだし。「したく」は「和語化」してるのではないでしょうか?
皆さんの感覚はいかがですか?
(追記)
「皆さんの感覚はいかがですか?」と書いたところ、早速、NHK放送文化研究所の塩田雄大さんからメールが。参考資料として、去年12月に書かれた言葉のQ&Aが送られてきました。
http://www.nhk.or.jp/bunken/summary/kotoba/term/148.html
タイトルは、
『Q「お返事」と「ご返事」とでは、どちらを使ったらよいのでしょうか。』
まさに、おんなじネタだ!アンサー(A)は、
『どちらも正しい言い方ですが、最近では「お返事」と言う人が多くなりつつあります。』
解説を見てみると、
『「お」と「ご」のどちらが付くかは、だいたい次のような傾向があります。
○やまとことば(和語)...「お」が付く。お金、お米、お餅など。
○漢字の音読みのことば(漢語)...「ご」が付くものが多い。ご親切、ご出演など。
○外来語...ふつう「お」も「ご」も付かない。
ただし漢語の場合には例外が多く、「お食事・お料理・お洗濯」など、「お」が付くものもかなりあります。漢語には少し堅苦しいことばが多いのですが、例外的に「お~」となっているものの多くは、漢語であっても私たちの生活に密着したものがほとんどです。
「返事」もその例外の一つです。これは、「かえりごと」というやまとことばに「返事」という漢字をあてて、そのあとに「へんじ」という音読みの漢語が出てきたものです。つまり、もともと「あまり漢語らしくない」ことばなのです(なお「大根(だいこん)」も「おおね」から生まれたことばです)。そのため、やまとことばとしてとらえた場合の「お返事」と、漢語として扱われたときの「ご返事」が、両方とも使われているのです。
ウェブ上でおこなったアンケートでは、「お返事と言う(ご返事とは言わない)」という回答(全体で63%)が、若い人になるほど多くなっていることがわかりました。また、特に女性はこの答えを選ぶ傾向が強く見られました(男性56%、女性68%)。
漢語のなかでなじんできたことばは、「ご~」から「お~」へと変化してゆくと言えそうです。最近では「お迷惑」「お連絡」というものも目にしますが、これはまだちょっと受け入れられにくいような気がします。どうでしょう、お理解いただけたでしょうか。』
はいはい、「"お"理解」しました。というかこれは「ご理解」ですね。しゃれています。
「お返事」「ご返事」でいうと、幼稚園などで子どもたちに先生が使うときは「お返事」、同窓会の出欠を先生に伺うときは「ご返事」と使い分けられる気がしますし、「話し言葉」と「書き言葉」でも分けられる、場面によって変えて使うこともあるのかもしれませんね。若いうちは話し言葉の使用の方が多いけれども、年齢が上がるほど、公私の使い分け場面が増えてくるのかもしれません。塩田さん、ありがとうございました。
(2012、6、20)