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『道浦TIME』

新・ことば事情

4748「ご冥福をお祈りします」

 

2008612日に書きかけて途中になっていました。当時の番号は「平成ことば事情2753」。

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「ご冥福をお祈りします」

という表現を、むやみに使ってはいけない、と聞いたことがありました。

調べてみると、2003年12月のあるサイトに

「『冥福』は祈らない」

と題して、外交官殺害事件についての各種ブログに使われている「冥福」という言葉が心に引っかかったと記されていました。

「なにか痛ましい事件があると、メディア、とくにTVで『ご冥福をお祈りします』と言うが、いつからそういう風潮になったか?阪神大震災あたりから違和感があった。浄土真宗、つまり門徒は『冥福』という言葉を使わない。」

として、「浄土真宗の弔辞の例文」という文章を引いています。

「仏教でも浄土真宗でも、故人の冥福を祈りません。冥福とは、『冥土(冥途)で幸福になる』という意味です。そして、この『冥土(冥途)』とは、仏教以外のものの考え方なのです。つまりご遺族に『ご冥福をお祈りします』とご挨拶されることは『亡くなられた方は冥土(冥途)へ迷い込んだ』ということを意味し、『お浄土の故人を侮辱する無責任で心ない表現』と言えます。浄土真宗にご縁が深い方へのご挨拶なら『○○さんのご冥福をお祈りします』ではなく、『○○さんのご遺徳を偲び、哀悼の意を表します』と浄土真宗の教えにふさわしい言葉に言い換えましょう。」

また、こんな記述も載っていました。

「冥福とは死後の幸福のこと。仏教では、亡くなった人は49日間冥土をさまよい、生前の行いに対する裁きを受ける。生前の行いによって次に転生する世界が決まると言われている。『冥福を祈る』とは、冥土の旅を無事終えて良い世界に転生できるように祈ること。残された親族が一生懸命祈ることで魂が浄化されるという説に基づく。仏教用語であるため、神道やキリスト教など他宗教の人に対しては使わない方がよい。また浄土真宗でもこの言葉は使わないので注意が必要。<言い換え例>ご冥福をお祈りします→哀悼の意を表します」

 

また、2008年6月12日の「思いっきりイイテレビ」で、若い女性アナウンサーが、映画評論家の水野晴郎さん死去のニュースのあとに、

「ご冥福をお祈りします」

と言っていましたし、その前日は、「ミヤネ屋」で宮根誠司さんが、「ご冥福」を祈ってしまいました。ある女性アナウンサー自殺したというニュースの時にも宮根さんは「ご冥福」を祈っていました。「ご冥福」を使ってはいけないのはどういう場合なのか?日本テレビの用語担当者に聞いたところ、

「『冥福』はもう使っています。年に何度かこの質問がきますが、日本テレビでは一応、

『亡くなった方がキリスト教徒、神道、浄土真宗の場合は使わない』としています。その場合は、『追悼の意を表します』『お悔やみを申し上げます』などにしていますが、『放送では絶対に使わない』とは言えない言葉になっています。」

とのことでした。

新聞用語懇談会放送分科会で、参加各社の委員の意見を聞いてみました。

<NHK>OAでは原則「追悼」と言うが「冥福」も出てくる。8月15日の「終戦の日」の式典で、天皇陛下は絶対に「冥福」とはおっしゃらない。「冥福」は浄土真宗の用語集にはない。外国人には使わないが、スポーツ中継でイギリスのテロの犠牲者に祈る場面でアナウンサーが「冥福をお祈りします」と使ってしまったことはある。「冥福を祈っていました」の言い換えとしては「亡き人を偲んでいました」か。JR福知山線の事故関連でも「冥福を祈っていました」はダメ。コメントは「哀悼の意を示していました」か。個人レベルで「冥福を祈る」のは良いが、第三者には使わない。「黙祷をささげていました」は容認。

<日本テレビ>一般的な言葉。昔のニュースでは聞いた気がする。「ローマ法王ヨハネ・パウロ2世」が亡くなった時に、日本人の記者が「法王のご冥福を祈っていました」としゃべってしまったことがある。

<TBS>何でもかんでも「ご冥福をお祈りします」を使っているのが現状。キーワード(Qワード)的にCMに行きやすいからか?「やめなさい」とは言っているのだが・・・。

<フジテレビ>ニュースでは使わない。ワイドショーで使うことがある。

<テレビ朝日>面識のある人が亡くなった時には使っている。

<テレビ東京>CM前にキャスターがニュースの中で言った。深く考えなかったんだと思う。基本的には言わない方がいいんだろうなあと思う。

<共同通信>原稿の「地の文」には出てこないが、談話に出てきたら「冥福」と使っている。

<朝日放送>「冥福」を使ってはいけないと初めて知った。他に言いようがないので、使っている。

<毎日放送>「冥福」使っているが、特にこれまでに問題はなし。

<関西テレビ>原稿には書いていなくても、キャスターがコメントで使うことがある。

<静岡放送>社内に浄土真宗の者がいたので聞いてみたら、「死後の幸せを祈るのが失礼にあたる」とのことで、言い換えは「謹んで哀悼の意を表します」とのことだった。

<テレビ大阪>「気持ちを表す言葉なので、使っても良い」というのがアナウンス部で話し合った結果だったが・・・今日の話し合いの内容を持ち帰って、また論議したい。

 

このほか、日刊スポーツのサイトニュースアナウンサーの高橋圭三さんの訃報(2002年)の際には、

「安らかなご永眠をお祈りいたします」

と書かれていました。

 

以上は4年前の状況です。

しかし4年経っても「ご冥福をお祈りします」は使われているなあ・・・というのが実感です。

 

(2012、6、12)

2012年6月13日 14:06 | コメント (0)