(※2008年9月15日に書きました。当時の番号は3251でした)
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突然ですが、スタッフの中から
「『享年』と言う言葉は、
(1)外国人にも使えるのでしょうか?
(2)死刑囚にも使えるのでしょうか?」
という疑問が出てきました。たしかに「外国人」や「死刑囚」に使うのは、何となく違和感がありますよね。仏教用語ではないようなのですが。(仏教だと『行年』の方が使われるようです)
読売新聞の関根健一氏に伺ったところ、
「『享年』は、墓碑銘などで用いた古めかしい言い方で、コラム風の文章でちょっと気取って使うのはともかく、あまり一般的な言葉ではないのでは。外国人だから使えないという性質のものではないと思う。仏教用語だから外国人に使えないという議論はよく聞くが、古い翻訳では、ハムレットはオフェーリアに『尼寺へいけ』と言うし、カトリック長崎大司教区のホームページには『原爆忌』と出てくる。讃美歌には神道用語から転用したような語句もある。明らかに対立する用語・概念(神を仏と言うなど)はともかく、教理と関係ない、対応するものは流用できるのではないか。死刑囚に使うのも、違和感は持たないのだ。墓碑銘で使う用語なので、幕末に刑死した志士の墓碑銘なんかでも、『享年』は使っていそうな気がする。『天から享けた年齢』だから、死因とは関係ないのではないか。」
また早稲田大学非常勤講師の飯間浩明氏に伺ったら、
「これは(1)にも(2)にも使えるだろう。『天から享けた年』だが、用例からは自害しても『享年』です。『日本国語大辞典』の用例の、馬琴『椿説弓張月』では『為朝伊豆の大嶋において自害す。享年三十三才と見えたり』とある。また、中村正直訳『西国立志編』の例も出ていて、これは原典にあたるとザビエル(雑未耶)のこと。もちろん外国人だ。原文では「......瘧疾ヲ得テ、没セリ、一千五百五十二年(天文二十一年)享年四十有七ナリシト云
フ」とある。これは外国人にも使える『動かぬ証拠』だろう。」
とのことで、両方「使える」とのお答えです。
この件に関して、新聞用語懇談会放送分科会で、
「事故や事件の被害者となった場合でも使用可能なのか。最近番組で議論になった事例は、死刑執行囚の年齢表記。結論としては死亡年齢のみの表記にしたのだが、「享年」という表記は、どのような形で亡くなった方への言葉なのかが気になった。」
と議題に出したところ、各社の委員から出た意見は、
<NHK>死刑囚には「享年」は使わない。時代的には明治と江戸の間で線引き。ストレートニュースでも使わないが、番組では使いたがる。「享年」は天から与えられた命を全うした時に使うので、幼い時に殺された者に使うのはおかしい。外国人などわからない時には使わない。
<日本テレビ>ストレートニュースでは使わない。小さい子が亡くなった時に使うのは、遺族の側にはたまらない。
<TBS>使わないようにしている。「歳」も付けないようにしているが、『広辞苑』には「歳」を付けて載っている(「享年九十歳」)ので、困る。
<フジテレビ>OAでは使わないようにしているが、新潮社の校閲担当の方に聞いたら「ニュートラルなものなので、外国人などでも使えるのではないか」ということだった。
<テレビ朝日>「享年」の使い方を意識したことはない。
<テレビ東京>「歳」を付けるなということだけは注意している。
<共同通信>読み物で、有名人には「享年」を使うが、一般人には使わない。
<毎日放送>読みでは少ないがスーパーでは「享年」はよく出てくる。
<朝日放送>不慮の事故では使いにくい。
<関西テレビ>読みでは少ないがスーパーでは「享年」はよく出てくる。
<テレビ大阪>「死刑囚」に「享年」を使うのは違和感あり。
<静岡放送>事故で亡くなった場合は「○歳でした」としている。
とのことでした。
(2008、9、15)
(追記)
2010年7月23日、読売テレビ朝の番組『す・またん』を見ていたら、
「マイケル・ジャクソン(享年50 )」
という字幕スーパーが。「マイケル」に「享年」は合わない感じがしました。
また、2011年3月、今度は、
「エリザベス・テーラー(享年80)」
と「ミヤネ屋」のスーパーチェックで出てきたので、「享年」は外しました。
そして、2012年5月2日、競泳・北島選手のライバルの、ノルウェーのダーレオーエン選手が26歳で急死したニュースを受けて、「ミヤネ屋」のスタジオのマルチ画面で、
「過去に急死したスポーツ選手」
を一覧表で列挙する際、
「享年37歳」
という表記はどうか?と質問を受けました。「享年」の「年」と「歳」は重複なので、(『広辞苑』の用例では「享年九十歳」が載っていますが)
「享年37」
とすべきだと答えたのですが、よく見るとそのリストには「外国人選手」も含まれていました。
「外国人に『享年』を使うのはそぐわない」
と答えた後、よく考えると「享年」は「天から授けられた寿命」なので、
「幼くしてなくなった場合や、不慮の事故で亡くなった場合には使わない」
ということを思い出し、結局「享年」は使わず、単にカッコ内に
○○○○選手(37)
のように示すことにしました。これで「亡くなったときの年齢」って、分かりますよね。
(2012、5、2)
(追記2)
先日(2012年5月18日)、世界的バリトン歌手のディートリッヒ・フィッシャーディスカウ氏(86)が亡くなった際の評伝記事(読売新聞:5月31日)で、音楽評論家の三宅幸夫さんという方が、
「享年86」
と、外国人ですが「享年」を使っていました。
(2012、6、12)
(2012、6、12)