新・ことば事情
4730「火蓋が切って落とされた」
物事が始まることを、火縄銃の発砲の比喩で、
「火蓋が切られた」
といいます。また、演劇が始まることの比喩で、やはり物事が始まることを、
「幕が切って落とされた」
と言います。この二つの混交表現による誤用が、
「火蓋が切って落とされた」
です。この表現は間違いなのですが、かなり広く使われています。
いつ頃から使われているのかは分かりませんが、少なくとも22年前にはそういった表現があったことに先日、思わぬところから気付きました。
というのは、5月21日の「金環日食」の際に、ドリカム(Dreams Come True)の1990年に出したアルバム『WONDER 3』に収録された『時間旅行』という曲の歌詞が、
「指輪をくれる?ひとつだけ 2012年の金環食まで待ってるから とびきりのやつを忘れないでね そうよ 太陽の指輪(リング)」
と、既に22年後の「金環(日)食」(当時は「金環食」が普通の言葉。「金環日食」という言葉が使われるようになったのは、ここ10年ほどではないでしょうか)を織り込んでいたこと、そして本当にその年にボーカルの吉田美和さんが結婚(再婚)したことなどが話題になりましたが、家でそのアルバムを見つけたので、聴きながら歌詞カードなどを見ていたら、2曲目、『戦いの火蓋』の歌詞に、
「戦いの火蓋は既に切って落とされている」
とあったのです。「既に」という表現が間に入ると、余計に違和感はなくなっていますね。22年前、私も使っていたかも知れません。