新・ことば事情
4710「爆弾低気圧」
用語懇談会で毎日放送の委員から
「爆弾低気圧」
についてこんな質問が出ました。
今月3日に日本列島を襲った"低気圧"ですが、「爆弾低気圧」の表現を使っている局(社)がありました。気象庁の気象に関する用語では使わないことにしていますが、各局さんの事情、また使った局の理由等をお教えください。(※MBSでは、「視聴者によっては不快に感じることもあるので使用しない。 『急速に発達する低気圧(気象庁)』などと言い換える」としています。) 使っていた局=TBSニュース、CX「特ダネ!」:新聞=読売新聞東京本社(爆弾低気圧の見出しもあり4月4日朝刊)
※気象庁HPから「爆弾低気圧」=中心気圧が24時間で24hPa×sin(φ)/sin(60°)以上低下する温帯低気圧(φは緯度)。例えば北緯40°なら17.8hPa/24hが基準となる。(気象科学事典等による)→「急速に発達する低気圧」などと言い換える。
読売テレビ「ミヤネ屋」では「爆弾低気圧」という呼称を、「使用」しました。
「ウェザーニューズ」の担当者に聞いた話では、
「こういった低気圧のことは普通『非常に発達した低気圧』というが今回はそういう表現を超えた規模のものであったために、『猛烈に発達した低気圧』『台風並みに発達した低気圧』と言う表現も用いた。しかしこれではインパクトが弱いので『爆弾低気圧』という呼称を使った。」
とのこと。また、
「気象庁は、この言葉の使用を禁止しているわけではないが、あまり使わないようにはしている。『爆弾低気圧』という表現が避けられるようになったのは『9・11』がきっかけだったと思う。」
とのことでした。
また、4月18日の朝刊(大阪本社発行)に、広島の「安芸の宮島(厳島神社)」が4月3日の暴風の影響で破損していたことが分かったという記事が載っていた。産経新聞と毎日新聞が「爆弾低気圧」という表現を使っていました。
・「厳島鳥居 爆弾低気圧で破損」(産経・見出し)
・「『爆弾低気圧』による3日の暴風で破損」(毎日・本文)
また、同じく18日の読売新聞では「爆弾低気圧」についての解説記事を載せていました。
「日経新聞」は使わなかったそうです(この時点で)。
放送各社は、
(NHK)使わない。気象庁が「俗な表現」として使わないから。
(日本テレビ)使っていない。万が一使う場合も「急速に発達した低気圧、いわゆる『爆弾低気圧』」とする。
(TBS)今回は、すり抜けて「使ってしまった」が、2007年3月19日の社内の用語委員会で「『爆弾』は戦争用語なので使わない」ことになっている。もし使う場合は、①ウエザーセンター判断で基準を満たしている。②「急速に発達した低気圧、いわゆる『爆弾低気圧』」とする。③スーパーで使う場合は、カギカッコつきの「爆弾低気圧」とする。④多用は避ける、という基準をクリアーすること。
(フジテレビ)基準【中心気圧が24時間で24hPa×sin(φ)/sin(60°)以上低下する温帯低気圧(φは緯度)】を満たせば使っても良い。「急速に発達した低気圧、いわゆる『爆弾低気圧』」と説明を加える。
(テレビ朝日)使わないが、5~6年前まで部分的に許容していた。2003年のイラク戦争の頃、デスク内で「爆弾」という用語を使うのはいかがなものか?という議論になったことがある。「台風並みに発達した低気圧」「猛烈な低気圧」などと言う。
(テレビ東京)使っていない。「爆弾」という表現は好ましくない。「急速に発達した低気圧」と言う。
(WOWOW)BPOに視聴者から「爆弾」とか「ゲリラ(豪雨)」という戦争用語をなぜ使うのか?という疑問が寄せられたことがある。
(共同通信)使った。短くインパクトのある表現なので、注意を呼びかけるためには適切だということで。しかし中には「適切ではない」という意見もあった。
(朝日放送)使っていた。ウェザーニューズの清水氏によると「『爆弾低気圧』という言葉は、普通の雨とは違うということを明確に伝えられるために使った」とのこと。
(関西テレビ)気象予報士に聞いたところ「『爆弾低気圧』は積極的に使うことはないが、外国では使っている。また、定義も決まっている。一方『ゲリラ豪雨』は定義が決まっていない」とのことだった。
また、その後(4月20日までの時点では使わなかった)日経新聞も5月2日の朝刊で、
「爆弾低気圧 爪痕越えて~震災被害の農家・漁師」
という見出しの記事を載せており、本文でも、
「日本海で急速に発生した爆弾低気圧の影響で」
と「爆弾低気圧」という表現をストレートに使っています。
分かりやすさを優先したのかもしれません。
(追記)
2013年2月の新聞用語懇談会放送分科会で、毎日放送の委員から、「爆弾低気圧」の呼称に関して質問が出ました。それによると、
「読売新聞は、これまで使っていた『爆弾低気圧』という表現をやめて、
『猛烈低気圧』
に変えると聞いた。他社で同じような動きはあるか?」
というものでした。へえー、そうだったんだ、全然知らなかった。
これに対する各社の意見は、
*(TBS)関東幹事会でも話題になったが、その時点で追随する社はなかった。ちなみに読売新聞は、「ゲリラ豪雨」もやめて「局地豪雨」とするそうだ。
*(共同通信)「爆弾低気圧」は、気象庁HPによると『中心気圧が24時間で24hPa×sin(φ)/sin(60°)以上低下する温帯低気圧(φは緯度)だが、「急速に発達する低気圧」などと言い換える』というきっちりとした定義がある。これに対して「ゲリラ豪雨」は定義がない。共同通信はカッコつきで"いわゆる"の意味を付けて「爆弾低気圧」を使っている。「ゲリラ豪雨」は使っていない。」
というもので。特に「猛烈低気圧」を使う社は、他にはなさそうでした。
きょう(4月3日)、関東・東北地方を襲った低気圧を「ミヤネ屋」では、
「爆弾低気圧」
と表現しました。また、日本テレビの夕方の「every.」でも、
「爆弾低気圧」
を使っていました。
(2013、4、3)