新・ことば事情
4683「笞(しもと)」
瀬戸内寂聴と梅原猛の対談集『生ききる。』(角川Oneテーマ21:2011、7、10第1版・2011、9、30第5版)を読んでいたら、
「笞(しもと)」
という言葉が出てきました。能『葵上(あおいのうえ)』で、六条の御息所(みやすどころ)が病に伏している「葵上」を、
「笞(しもと)で叩く」
と。心の底で嫉妬した六条の御息所の生霊が、もしかしたら行ったかもしれない。「無意識」の世界・・・という「近代文学」、犯罪心理を表していると、対談の二人は説きます。「自分の意識」というのは果たして「無意識」か?「意識」か?哲学的な世界に入っていきます。
で、この「苔(こけ)」と書いて「しもと」と読むものは、一体なに?
『精選版に本国語大辞典』を引くと、載っていました!
「しもと(笞・楚)」=「(「しもと」を用いたところから)刑罰の具。木の若枝でつくったむち、または杖。また、それで打つ刑。すわえ。しもっと。」
うーん、全然わかりません・・・・。「木の枝」と「こけ」は同じものなのか?
実はもうひとつ「しもと」が載っているのですが、この漢字はワープロでは出てきません。草冠の下にゴチャゴチャっと書いてあります。もしくは木へんに「若」と書いて「しもと」、あるいは「細枝」と書いて「しもと」。もうこうなると「当て字」ですよね。意味は、
「枝のよく茂った若い木立。若い小枝の長く伸びたもの。すわえ。」
「枝」のことを「しもと」と言うようで、それをむちのように用いてビシバシやる刑罰も「しもと」と言うと。「すわえ」って何だろう?
「すわえ(楚・「木若」・杪)」(1)木の枝や幹から、まっすぐに細長く伸びた若い小枝。すわい。ずわい。すわえぎ。(2)刑罰に用いる道具。むち。しもと。また、それで打つこと。(3)舞楽で舞人が持つ白い木の棒。
「すわえ」と「しもと」は同じような意味ですね。
気になったのは、「すわえ」を「ずわい」とも言うと。「ずわい」と聞いて思い出すのは、もちろん、
「ズワイガニ」
です。もしかしたら、
「足が枝のように伸びているから」
この名前があるのではないか?これは想像ですが、そうだとしたら、いろいろ古い言葉が現代につながっているんですね。
でもなぜ「苔(こけ)」と書いて「しもと」と読むかは分からずじまいでした・・・。
あ、そうだ、こういうときは「漢和辞典」だ!
『新潮日本語漢字字典』を引いたら、「しもと」と読む漢字が4種類、載っていました!!
その中で、「笞」を見ると、
「むち・しもと・むちうち」
と3つの読み方が。
①むち・しもと。人を叩くための竹や木の棒。人を苦しめる厳しい戒めにたとえる。<「むち」は多く「鞭」と書く>
②「①」で人を叩く。また、人を厳しく責めて苦しめる。しかって励ます。"むちうつ"とも読む。
ここで私、気付きました・・・「苔」じゃなかったんだ・・・「竹」かんむりの、
「笞」
でした。そりゃ「こけ」のわけないわな。
「草かんむり」が「苔」、「竹かんむり」が「笞」。
ややこしいなあ。
「楚」は「すわえ」。「楚輪(そわ)」さんというサッカー選手が昔いたけど、あれは「楚」だけでも「すわ(え)」→「そわ」と読んだのかも知れんなあ。