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『道浦TIME』

新・ことば事情

4575「悪魔は細部に宿る」

 

2012年1月6日の日経新聞夕刊「ウォール街ラウンドアップ」というタイトルのコーナーは、

「悪魔は細部に宿る、という」

という文章で始まっていました。

「悪魔は細部に宿る、という。米連邦準備理事会(FRB)が検討する透明性強化策に関しエコノミストからあがったのがまさにこの言葉だ。金融政策の行方を市場に分かりやすく伝える。その意図はいいが、仕組み次第で毒にも薬にもなるというわけだ」

と始まり、

「まさに細部にこそ悪魔は宿る。」

で締められています。ニューヨーク支局の西村博之記者の署名記事です。

これを読んでまず思ったのは、

「えっ!?『悪魔』?『神』じゃないの?」

ということ。

「神は細部に宿る」に関しては、平成ことば事情1679「神は細部に宿る」という文章を書いています。8年ほど前(2004年4月)ですが。

「神=悪魔」

なのでしょうか?昔、書いたものを読み返してみると、『神は細部に宿る(God is in the details)』は、建築家のルートヴィッヒ・ミース・ファン・デル・ローエ(Ludwig Mies van der Rohe, 1886-1969)と、ドイツの美術史家アビ・ヴァールブルグ(Aby Warburg, 1866-1929)のお気に入りの言葉だった」が、その元は「代表作「ボヴァリー夫人」で有名なフランスの写実主義小説家グスターヴ・フローベル(Gustave Flaubert, 1821-1880)の "Le bon Dieu est dans le detail" だという説」「イギリスの著名な美術評論家・社会思想家ジョン・ラスキン(John Ruskin, 1819-1900)だという説」があると。

この格言はミースが学生たちに語ったことから有名になったが、それは1940年代はじめのことで、ヴァーブルクはすでに1925年のハンブルク大学のセミナーで学生にしばしば "Der liebe Gott streckt im Detail."と語っていたという証言があるとのこと。

ニーチェ説もあるようです。そして、

「いずれも根拠のテキストが見つかってない」

のだそうです。

「神」や「悪魔」ということは「キリスト教」聖書の中に出てくる言葉なのでしょうか?

Google検索をしてみると、(115日)

「神は細部に宿る」 =255000

「悪魔は細部に宿る」= 34100

でした。「神」は「悪魔」の8倍ぐらいいました。元は「神」だったのではないでしょうか?なお、久世番子(くぜばんこ)さんという漫画家には、

『神は細部に宿るのよ』(講談社KCコミックス)

という漫画があるそうです。おもしろそうです。

あ、それと、この「神は細部に宿る」は、2007年に出版した拙著『スープのさめない距離~辞書に載らない言い回し56』(小学館)で、当初候補に挙がっていたのですが、詳しいことが分からず、最終的に採用されなかった項目です。そのときに調べて書いたものの中に、こんな記述がありました。

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スポーツジャーナリストの金子達仁は『すべては、あの日から。』(新潮社、2006)の中で、

「プライドは、細部に宿る」

と変形させて使っていた。

また、整理回収機構の社長を務めた元・弁護士の中坊公平氏は、大阪・千日前デパート火災テナント弁護団団長を務めた回想をまとめた本『現場に神宿る~千日前デパートビル火災、被災テナントの戦い』(現代人文社、2006)で、「生きる生活の智慧である現場主義」を「現場に神宿る」という言葉で表している。

いろんなものが「細部に宿る」ようだが、「木を見て森を見ず」ということにならないよう、注意したい。

 

(2012、1、15)

2012年1月22日 11:17 | コメント (0)