新・読書日記
2012_011
『イエスの言葉 ケセン語訳』(山浦玄嗣、文春新書:2011、12、20)
著者の山浦玄嗣さんは、1940年生まれ。宮城県気仙沼市在住の医者であり、クリスチャンであり、また気仙沼の方言「ケセン語」訳で聖書を訳した人でもある。東日本大震災の前から、言葉の世界では有名な人であった。
今回、その山浦さんの住む気仙沼を、地震と津波が襲った。そんな中で山浦さんは、苦難の中から立ち上がるべく、「ケセン語」に訳された聖書の言葉を拾い、復興へ向けて立ち上がろうとする人たち(自分たち)に重ねた。
「神様の思い」から「復活」まで38の言葉は、これまでの共通語に訳された聖書の言葉では届かなかった「聖書」の思いが、「ケセン語」という素朴な響き、噛み砕かれた平たい表現で、立ち上がり迫ってくる。
最後の「復活」を読み終えたとき、気仙沼のそして東北の「復活」を信じた。読み終えてからマーラーの交響曲第2番「復活」のCDを久々に聞いた。
「冷たい雪とまっ黒な泥濘におおわれた見わたす限りの瓦礫の野を前にして、呆然と立ちつくすわたしの肩をがっちりとつかんで、イエスは言います。『おい、元気を出せ、この生き死人(しびと)め。この俺は死んでもまた立ち上がったのだぞ。その俺がついているんだ!さ、涙をふけ。勇気を出して、いっしょにまた立ち上がろう。お前のやるべきことが、そら、見えるだろう!』」
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(2012、1、14読了)
2012年1月26日 08:03
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新・読書日記
2012_010
『紅梅』(津村節子、文藝春秋:2011、7、31)
夫・吉村昭が舌ガンと闘う様子を、介護しながら記し、「小説」にした"ノンフィクション"。
最後に吉村が、コーヒーとビールを飲んだあと、いきなり点滴の管のつなぎ目をはずし、
「もう、死ぬ」
と言った、と娘が育子に告げたシーンは圧巻である。
『育子は夫の強い意志を感じた。延命治療を望んでいなかった夫の、ふりしぼった力の激しさに圧倒された。必死になっている看護師に、育子は、「もういいです」と涙声で言った。娘も泣きながら、「お母さん、もういいよね」と言った。(168ページ)
~「もう、死ぬ」と言って"管"を引き抜くシーンは「生の尊厳」(裏返せば「死の尊厳」)を、これほど誇り高く貫ける人というのはすごい!と涙なしでは読めない。
吉村氏の作品は、去年の東日本大震災をきっかけに、また注目を浴びて読まれている。三陸海岸の大津波、関東大震災といった災害について、その対策の重要性・被害を後の世に伝えることの重要性を、自らの足で調べて書いてものをベースに説いている、その"先見性"に注目されている。その人の"最期"がこういった形だったとは・・・。すごい人だったのだ、と改めて思った。また、それを書き残す津村さんもすごい。それが「夫の弔い」であるのだろう。
メモを取ったところは以下のとおり。
*旧幕軍が新政府と戦って一日で敗れた上野のいくさは荒川区生れの夫にとって土地勘がありすぎるほどあって、「少しくわしすぎるんじゃないの」と育子が言ったほどだった。(31ページ)。「土地鑑」ではなく「土地勘」。
*『言い終わらないうちに、夫は、「また不動産か」と声を荒げて言った。』(52ページ)。「荒らげて」ではなく「荒げて」。
*『苛立って声を荒げ、いつもおだやかで手伝いにはとりわけやさしいのに、彼女らが怯えるほどだった。』(93ページ)
*「深部静脈血栓症予防の白いタイツをはかされ」(72ページ)~これって、「エコノミークラス症候群」のこと?
*「網膜中心静脈閉塞症」=眼底に二度にわたってステロイド剤を注入する治療を受けた。視力は思っていた以上に回復した。=うちの母と同じ症状だ!
*「育子は肩凝りにたえられなくなり、マッサージに行った。夫の痛みと育子の肩凝りは正比例する。」(98ページ)=夫婦の「介護」とは、そういうものか・・・。
*「脱獄を四回繰り返した男を書いていた時も、うなされていたし、獄舎に放火させて脱獄し、全国を逃げ廻った幕末の蘭学者を書いていた時は、再三うなされていた。」(147ページ)=「物書き」とは、そこまで自らを追い詰めるのか・・・。
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(2012、1、5読了)
2012年1月25日 03:08
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新・読書日記
2012_009
『ぐうたら生活入門』(遠藤周作、ハルキ文庫:2011、12、18第1刷)
なつかしいなあ、昔(中学生のときに)読んだよなあと思って、ついつい買ってしまった。去年、北杜夫が亡くなったことで、"相棒"ですでに鬼籍に入っていた「狐狸庵先生」にも脚光が当たったということかな?
30数年ぶりに対面。単行本を持っていたような気がするが。魅力的なイラスト、改めて見ると、おお「和田誠」だったのか!「星新一」も和田誠か、イラストは。そして「遠藤周作」も・・・知らなかった。でもずっと変わらず魅力的な絵だ。30数年たって、改めての発見は、うれしい!
内容は・・・これを書いたときに遠藤周作はまだ40代だったのかなあ。年、取ってるように見せかけた狐狸庵山人、書いていて楽しかっただろうなあと思う。今読んでも面白い。楽しんで書いているのがわかる。
読み終わってから本棚を探したら・・・なんと30数年前の文庫本が出てきました!和田誠のイラストだが、図案が違う!ということは、今回新たに描き直したのか!当時は1冊140円でした。もちろん消費税などはありませんでした。紙が茶色くなっていました・・・。
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(2012、1、9読了)
2012年1月24日 07:11
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新・読書日記
2012_008
『観察眼』(遠藤保仁・今野泰幸、角川oneテーマ21:2012、1、10)
最近、サッカーの現役選手の書いた(話した)本が増えているが、この「角川oneテーマ21」も、確か何冊か出してるよな。遠藤の本も、ここだったのでは?
今回はまず今野の話、続いて二人の対談、そして最後に遠藤の話というようにサンドイッチにされた構成。今野選手についてあまり知らなかったので、知りたいと思って購入。
今季、J1復帰を決め、天皇杯優勝も手にしたFC東京の中心選手で、その後ガンバ大阪への移籍も正式に決まったようだ。ということは、遠藤とチームメイトになる。もうこの対談の時には、そんな話も出ていたのではないか?と思わせるような・・・。
それにしても、見た目と違って、気の弱い選手だったんだなあ。だからこそ、いろいろと考えた行動、ポジションを取れるのだろう。守備の選手はあまり大雑把だといけないし。
今年のシーズンも、ぜひガンバってもらいたい!
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(2012、1、10読了)
2012年1月23日 22:10
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新・読書日記
2012_007
『「ぐずぐず」の理由』(鷲田清一、角川選書:2011、8、25)
哲学者で大阪大学学長を務めた著者が、「擬態語・擬声語」について考えた。言葉の専門家(言語学者)ではないが、やはり言葉について深く考えていくと「哲学」にたどり着くんだということが改めて分かった。よって、かなり「深い」考察が行われている。
中でも「あ!」と私が思ったのは、
「ナ行は、鼻に息が漏れる!」
ということが記されたところ。実際、鼻の穴の下に人差し指を1本横にして「な」と言ってみると、「N」の子音を言うときに(母音の「ア」が出る直前に)息が漏れるのを感じた!つまりこれは「鼻濁音」と同じだ!フランス語の「鼻母音」はこれだ、きっと!フランス語は知らないけど。「鼻濁音」を言うときのヒントとして、小さい「ン」を付けてから「ンが」「ンぎ」...とすると「鼻濁音」が言えるというように若手アナウンサーを指導したりするが、これは「ナ行」の音と息の漏れ方が同じだからなんだ。改めてそんな発見もある、考えさせられる一冊でしたが、結構、難しかった。
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(2012、1、15読了)
2012年1月22日 14:09
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新・読書日記
2012_006
『日本語の難問』(宮腰賢、宝島新書:2011、10、22)
タイトルに偽りなし!かなり「難しい」日本語の「お勉強」という感じ。見開きで一つの質問と答えが載っているが、ギューッと詰め込んでいるので、読むのは相当根気が要る。
文法的な¥面も多いので、そこは我慢して読むか、読み飛ばすしかない。もう少し「答え」を簡潔にまず書いてから解説にしてくれると、もっと読みやすかったと思う。
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(2011、1、17読了)
2012年1月21日 06:08
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新・読書日記
2012_005
『伝える力2』(池上彰、PHP新書:2012、1、10)
池上さん、去年3月末でテレビには出ないと言っていたような・・・震災があって、その後も出続けていますね。でも、本も出し続けて。何でも「工房」のようなスタッフがいるというようなことも耳にしましたが、本当でしょうか?
とても読みやすい一冊。高校生、大学生などにぴったり。
第6章「気になる言葉、気になる表現」と第7章「日本語は乱れているのか」は私の分野の話。参考にというか、「フムフム、これについて書いているのか」という感じで読みました。
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(2012、1、13読了)
2012年1月20日 21:31
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新・読書日記
2012_004
『DearKAZU(ディア・カズ)~僕を育ててくれた55通の手紙』(三浦和良、文藝春秋:2011、12、10第1刷・2011、12、20第3刷)
なんか、抱き締めたくなるような一冊。人は一人で大きくなったんじゃないんだということを教えてくれる。表紙のカズの写真のファッションもカッコいい!
ビンドットのネクタイは知性を感じさせるね。パナマ帽?は、なかなか人を年齢を選びます。セルジーニョって知らなかったけど、おもしろそうなハチャメチャな人だな。
まぁしかし、これは雑誌の企画のために、わざわざカズ宛に送ってもらった手紙の数々なので、ちょっと「構成された感」がある。それにしても、カズは年の上の方の人から若い人まで、そしてサッカー選手だけじゃなく、いろんな分野の人から支えられているんだなぁということは、よーくわかる一冊。カズの「ダンディズム」=やせ我慢みたいなものも感じられる。このところカズは次々と本を出してないかい?一体いつ、引退するのだろうか?去年(2011年))Jリーグでは、初めて1点も得点できなかった・・・というのは、ひとつの「区切り」のチャンスだったのでは?と思うのだが。でも「東日本大震災」が起きて、そのチャリティーマッチで点を取っちゃったから、こんなタイミングではやめられなくなったのではないだろうか?被災地を勇気付けるためにも。年が明けて2012年になっても、北海道のチームでフットサルをやって、5000人も観客を集めちゃうんだもんね。
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(2012、1、12読了)
2012年1月19日 15:29
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新・読書日記
2012_003
『人生で本当に大切なこと~壁にぶつかっている君たちへ』(王貞治・岡田武史、幻冬舎新書:2011、11、30第1刷・2011、12、25第3刷)
中学・高校生向け、両氏の対談集。字が大きい。1ページ13行しかない。でも収穫も大!やっぱりスポーツの勝負をする中でいろんなことを学ぶのだと思います。岡田武史監督も子供の頃南海ホークス子供の会に入ってたんやて!一緒や!
岡田武史監督とキャスターの国谷裕子さんは小学校の同級生だったと。しかし二人ともお互いにそれを覚えていなかった。国谷裕子さんはアルバムを見て思い出したと。
「私が帰国子女で、きちんとした日本語がしゃべれなかったとき、『ヤンキー、ゴーホーム』といじめたのが岡田君だったことを思い出しました。」・・・・。
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(2012、1、6読了)
2012年1月18日 21:44
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新・読書日記
2012_002
『フェルメール光の王国』(福岡伸一、木楽舎:2011、8、1第1刷・2011、10、1第2刷)
新年2冊目はこちら。お上品ですね。年末(12月)に福岡伸一さんの『動的平衡2』『センス・オブ・ワンダー』と続けさまに読んで、フェルメールに注目、この本も読まなくては、と。写真が実に美しい。フェルメールは「微分」の画家であると。「微分」は高校の時にやったけどもう忘れた。でも、福岡ハカセ解説で、
「"微分"とは瞬間を切り取り、次の動きを内包したもの」
ということが「そうだったのか!」とわかった気がした。
フェルメールを見る目が変わった!
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(2012、1、3読了)
2012年1月18日 02:42
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新・読書日記
2011_241
『内部被曝の真実』(児玉龍彦、幻冬舎新書:2011、9、10第1刷・2011、9、15第2刷)
昨年(2011年)7月の国会での発言以来、大変注目を浴びている児玉先生の本。
放射線の専門家として、ずっと福島の原発事故対応に奮闘されている。(事故が起きる前に決められた)法律には反するとわかっていながら、「今できる最善のこと」として"分析資料"を持ち帰ったりしたことも記されている。
現場で頑張ってくれるこういった専門家の人たちの働きなくして、福島の、日本の再生はありえないと感じた。
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(2011、9、23読了)
2012年1月15日 17:49
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新・読書日記
2011_240
『官僚を国民のために働かせる法』(古賀茂明、光文社新書:2011、11、20)
古賀さんの最新刊。2011年の9月26日に、31年勤めた経済産業省の官僚をやめてからは、初めての本。
官僚は、「内向き」に「働き者」。残業が遅いのも、残業する前に飲みに行ってそれから役所に戻るから、だとか・・・。仙谷さんとの冷たい戦いとかについても記述。
第5章の9項目の提案、これがこの本での前向きなところです。
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(2011、12、26読了)
2012年1月15日 10:35
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新・読書日記
2011_239
『いいから いいから2』(長谷川義史、絵本館:2007、8初版・2011、7第13刷)
著者は1961年大阪府生まれ。同い年だ!この絵本のシリーズは、全然知らなかった。
私が家で怒った時、小学1年生の娘が、この本の帯に書かれていた言葉を急に読み出した。
『おこってはいけない
だれかがおこると だれかにでんせんして
だれかが またおこる。
それがまた だれかにでんせんして
なんにも いいことない。
せかいをへいわにする ほんきのあいことば
「いいから いいから」』
う、う、うるさいわい!!
小学生並み・・・以下の私です。
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(2011、11、26読了)
2012年1月14日 10:33
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新・ことば事情
4559「『借りぐらしのアリエッティ』の音位転換」
先日、テレビ初登場だった宮崎アニメ『借りぐらしのアリエッティ』(監督・米林宏昌)。
背景の植物などの絵がとても存在感があって「すごいな」とうちの子供も言っていました。
さて、このタイトルですが、なんとなく「音位転換」が起きて間違ってしまいそうなタイトルです。正しくはもちろん「借りぐらしのアリエッティ」なのですが、この「借りぐらし」の「借」と、「アリエッティ」の「ア」が入れ替わって、
「アリぐらしのカリエッティ」
となっても、全然、違和感なし!
意味は通じませんが、間違っていないように感じます。「か」と「あ」、母音が同じだからかな。「借りぐらしのアリエッティ」「アリぐらしのカリエッティ」・・・と交互に5回づつ言えば、アナウンサーの滑舌練習にもなりますね。
(2012、1、11)
2012年1月12日 16:51
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新・読書日記
2011_237
『問題発言』(今村守之、新潮新書::2011、12、20)
2011年ほど「問題発言」が多かった年はないのではないか?と書くと「いやいや、これまでもあった」と言う人が多いのでは?実際、問題発言は歴史上多々ある。それらを集めた一冊。つまりこれを読むことで問題発言を少しでも減らせれば・・・というための参考書になるのではないか。
しかし、最近は何でもかんでも「問題発言」にしてしまう傾向も強いし、そういう傾向があるにもかかわらず、あまりにも軽口をたたきすぎる「エライ人」が多いのも事実ではなかろうか。「昔だったらこれぐらいは、どうってことなかった」という風に感じている「問題発言者」もいると思うが、「時代」によって「何が問題で何が問題でないか」という基準は変わる。それに気づかないのは、時代に取り残されているということなのだろう。もちろん中には「核心犯」的に「問題発言」とされる言葉を口にする人たちも、いるのではあるが。
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(2011、12、26読了)
2012年1月12日 12:25
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新・読書日記
2011_236
『第九~ベートーヴェン最大の交響曲の神話』(中川右介、幻冬舎新書:2011、11、30)
「第九」と言えば、言わずと知れたベートーベン作曲の「交響曲第九番」。日本では年末によく演奏されますが、この曲がクラシックの中でも際立って独自の地位を築くまでの歩みが記されている。ベートーベンの死後、幾多の有名音楽家が、「第九」とどう関わってきたかについては初めて知ったことが多かった。たとえば、メンデルスゾーンやワーグナーは、「第九」を「ビアノ譜」にしていた!メンデルスゾーンは作曲以外に指揮、ビアノ、バイオリン奏者でもあった!などなど。
季節感とともに、ロマンを感じさせる一冊でした。
star4
(2011,12,31読了)
2012年1月11日 10:23
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新・読書日記
2011_235
『テレビ局削減論』(石光勝、新潮新書:2011、12、20)
以前、「テレビ通販の番組を作ったのは私だ」というような内容の本を書かれた方。今はテレビ局OB。その目から見て、「今後の地上波テレビ局の生き残り策には、テレビ局数を削減するしかない」と。それはひとつの意見だと思うが、内容に関しては「だってそういうテレビ番組を作ってきたことには、あなたたちも原因の一因があるんじゃないでしょうか?」と、つい口に出てしまいそうになったが・・・。
star3
(2011、12、23読了)
2012年1月10日 20:56
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