新・ことば事情
4508「二足のわらじをはく 2」
平成ことば事情3366で「二足のわらじをはく」、平成ことば事情3868では「二足のわらじ」というタイトルで同じようなことを書いていますが、それの第3弾と思ってもらったら結構です。
2011年10月24日の日本経済新聞夕刊の「先輩の肖像~10年後の君たちへ」では、芥川賞作家の津村記久子さん(33)へのインタビュー記事が載っていて、それの見出しが、
「小説家と会社員、実る二足のわらじ」
とあり、記事本文にも、
「会社員との二足のわらじは創作にも役立ってきた。」
とありました。同じ24日の毎日新聞夕刊にも、この「二足のわらじ」が登場。こちらはスポーツ選手、アメリカンフットボールのXリーグ「アズワン」のディフェンスタックル・西尾公伸選手(28)。昨年司法試験に受かり、今は裁判所などでの法律の実務を学ぶ身だとか。で、見出しは
「法律家 二足のわらじ」
でした。「相反する二つの仕事」という意味合いはいずれもなく、ただ単に、
「2種類の仕事をしている」
という意味で使われています。
また、理央周(りおう・しゅう=本名・児玉洋典)さんというコンサルタントの人が書いた本『サボる時間術』(日経プレミアシリーズ:2011、9、8 第1刷・2011、10、4 第3刷)の中にも、
「誰もが二足のわらじをはいている」(180ページ)
「人は誰でも二足以上のわらじをはいている。」
「彼女たちの多くに共通しているのは、『女性ならではの二足のわらじ』をどのようにはきこなしていくのかがネックになっていることである。結婚している場合は、ビジネスパーソンとしての顔に加えて、妻や母親としての役割もあり、その役割をはたすための時間が制約条件になっているんです、という相談もいただく。」(181ページ)
と言うように、「二足のわらじ」が出てきましたが、いずれも「相反する仕事」という意味合いはありませんでした。
(2011、11、24)
(追記)
2011年11月14日の日本経済新聞夕刊の「先輩の肖像~10年後の君たちへ」では、関西の私立中学入試対策塾として有名な「希(のぞみ)学園」の学園長である黒田耕平さん(36)を取り上げていいます。黒田さんは講師250人を率いる「運営責任者」であり、週4日は算数の授業を受け持つ「看板講師」でもあるとして、
「有名塾のトップとして経営実務をこなし、看板教師として授業や数多くの講演に立つ。多忙な二足のわらじも「子どもをぐいぐい引っ張るのはパワーがいる。30代の今だから、まだできる」と意に介さない。」
と紹介している中で「二足のわらじ」が出てきました。
このコラムは、以前の芥川賞作家・津村記久子さん(33)といい「30代で活躍している先輩」を取り上げて、「10年後の君たちへ」というのですから、読者は「20代の若者」を想定しているようですがいますが、いずれも「二足のわらじ」というし表現が出てくるのは興味深いところです。
(追記2)
アメリカ在住のI先輩からメールが届きました。
『「二足のわらじ」と同じような意味で、英語では「わらじ」のかわりに「帽子」を使う表現があります。
He is wearing two hats
で、「彼には肩書きが二つある」という意味になります。
わらじと違うのは、わらじは二足以上は使えませんが、(「三足のわらじをはく」はないでしょう?)
帽子はみっつでもよっつでも使えます。そのときどきに、帽子を変えたらよいわけですから。』
なるほどねー。「わらじ」ではなく「帽子」。日本だと「笠」かな?
そういえば昔、京都に「わらじステーキ」というのが名物の洋食屋さんがあったけど、どうなったんだろう?そのステーキを二人分食べたら、
「二食のわらじ」
かな?