新・ことば事情
4504「比喩表現としての天皇」
このところハマっている、今年の直木賞作家「池井戸潤」の作品。この1か月足らずの間に読み浸っている感じです。
さて、その中でもゼネコン業界の談合を描いた作品『鉄の骨』(講談社:2009、10、7第1刷・201、07、1第7刷)。これを読んでいたら、何度も何度も出てきて気になった言葉がありました。それは、比喩表現としての「天皇」です。「絶対専制君主」的な意味合いで「天皇」を使っています。(これについては以前、平成ことば事情3108「防衛省の天皇と女帝」で書いたので、その関連です。)
『鉄の骨』に出てきた「天皇」を抜粋しました。
*153ページ「それだけの大物で、天皇って呼ばれてて、大型工事案件には必ずその人の影がちらつくっていうのに、その人はいままで警察(サツ)の世話になったことは一度もないんだぜ。」
「とにかくその天皇って呼ばれている人物が、かなりの大物で強烈にすごい、ということだけは間違いなさそうだ。」
*177ページ「"天皇"三橋と同席した来賓室での一部始終だ。」
*179ページ「親しく接してもらったとは思いますが、それだけですよ。相手は天皇って呼ばれてる人だし」
*206ページ「三橋さんは、天皇っていわれていると聞きました。」
*225ページ「天皇と呼ばれるほどのフィクサーの茶事に招かれながら、肝心の仕事の話は、ちらりとも出てはこないのだから」
*227ページ「三橋が天皇なら、城山は上皇ってとこかな」
*251ページ「青山のでっかい家に住んでてさ、建設業界の天皇って呼ばれてるんだ」
*347ページ「天皇様はなにかいってなかったか」
*362ページ「今度ばかりは、三橋天皇の威光も及ばずだな。ダメなものはダメ。それだけのことさ。」
*381ページ「この高度な経営判断に、ヒラ社員に過ぎない平太の意見などなんの意味もない。ましてそれを、業界の天皇と呼ばれる男に述べたところで、どうなるわけでもない。」
*456ページ「『矛盾していると思うか』天皇と呼ばれる男の表情が変わり、業界を睥睨するかのような強い眼差しが平太を射た。」
*478ページ「だけど、もう天皇様と交渉することはないだろうな。次にこんなでかい公共工事があるまで」「そうかな。知り合いになったことを後悔することになるかも知れないぜ。なにしろ、カッコいいこといったって、所詮、闇のフィクサーだからな、あのおっさんは」
*503ページ「最後に三橋が入室してきたときには、室内が水を打ったように静まり返った。業界に君臨し、天皇と呼ばれる男の威光を、このとき平太はまざまざと見せつけられた気がする。」
*509ページ「平太はゆっくりとかぶりを振り、天皇と呼ばれた男の目に応える。」
この抜粋を読むだけでも、なんだか、小説の全体像が透けて見えてきそうです。