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『道浦TIME』

新・読書日記 2011_196&197

『空飛ぶタイヤ・上&下』(池井戸潤、講談社文庫:上巻2009、9、15第1刷・2011、8、26第8刷、単行本は実業之日本社2006、9;下巻2009、9、15第1刷・2011、9、8第9刷、単行本は実業之日本社2006、9)

 

これも池井戸作品を代表する長編。既に定着しているので、文庫本で出ている。

実はタイトルからのイメージで、勝手に「ファンタスティックな童話」だと勘違いしていたが、実際は「走行中にはずれたトラックのタイヤが当った女性が死亡、そのトラックを所有している中小運送会社と、大企業の自動車メーカー、同グループの大銀行などを巡る『整備不良か、構造的欠陥か』という攻防」を描いたもの。実際にあった事件を髣髴させる。その中で、主人公の中小企業運送会社の二代目社長は、子どもの小学校のPTA会長も務めていて、そちらでも窮地に追い込まれたり、子どもがいじめられたりと、いくつものラインが絡まって、物語に深みと広がりを与えている。

上巻・下巻あわせて900ページにもなる大部だが、上巻の170ページくらいから下巻の最後までを、一晩で(朝の4時前まで)一気に読み通した。そんな魅力がある。途切れ途切れに読む作品ではない。

そして気づいた。

「池井戸作品は、本来、"企業ドキュメント"(=ノンフィクション)となるべき物に"フィクションの衣"を着せている。その意味では、純粋な創作としてのノベル・小説ではない。モザイクと音声処理、あるいは再現ドラマを施した"ノンフィクション"だ!」

しかし、それは間違いであることが、下巻の巻末に大沢在昌の「解説」を読んで分かった。たしかに「ノンフィクション」的ではあるが、キモであるところの「ホープ自動車」内部の人間模様などは完全なフィクション・創作であると。

でも、明らかに実際にあった事件や出来事が、執筆のきっかけ・動機にはなっているよなあ。実際の出来事に重ね合わせて読む読者も多いと思う。その意味では、題材(執筆のきっかけ)にされた企業や業界に所属する人は、あまりいい気分はしないような気がするなあ。たいていは、大企業だけど。

 

 


star4

(2011、11、12読了)

2011年11月15日 12:12 | コメント (0)