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『道浦TIME』

新・ことば事情

4494「クロベイのアクセント」

 

1020日のNHK「ブラタモリ」は、新宿をぶらぶら歩いていました。新宿御苑に始まって、玉川上水の跡、新宿高校内に残る玉川上水の"上"を流れていた"下水"の遺構とか、江戸時代の「水番屋」の跡地には東京都水道局新宿支所の建物が建っていたり、西新宿の都庁界隈のオフィス街が、昔(といっても30年ぐらい前でしょうか?都庁が建つというのは、私が働き始めてからだし、ついこの間、都庁が建ったと思ったらもう20年も建っている、いや経っているんですねえ)は「淀橋浄水場」だったとか、なかなかおもしろいですね。東京都水道局のマスコットのゆるキャラには男女揃っていて、「水滴君」と「水玉ちゃん」というそうです。ふーん。1回見ただけでこれだけ覚えているんだから、インパクトの強い番組内容だったというべきか、たとえ『ちいさんぽ』の二番煎じの企画だとしても。二番も三番もないんです。同工異曲の番組は昔からたくさんありますからね。MBS『夜はくねくね』(おお、懐かしい!)の昼版とも言えますか。

さて、その後タモリさんたちが向かった先は、新宿・十二社。

「社」と書いてなぜだか「そう」と読む。そのナゾ解きはなかったな。藤子不二雄Aさんの事務所もこの辺にあって、何年か前にインタビューにうかがったことがありました。

その十二社に、昔「池」があったので 地名に「池の上」「池の下」と残っているが、肝心の池はもう埋め立てられてしまって残っていない。ただ、池があった頃に住んでいた人たちは、お年寄りの中でまだ生きているであろうと、聞き込みを始めたところ、ちょいと老舗のおそば屋さんのおかみさんが覚えていた。中学生ぐらいのときの写真(おそらく50年ぐらい前)を出してきたら、ちゃんと池が写っていた。そして当時はその辺りは、イキな感じのお店が並んでいたという話になった時に、おかみさんが(70歳代と思われます)、

「当時はずっーと『クロベイ』があって」

といったのです。このアクセントが、「ロ」が上がる「中高アクセント」で、

「ク/ロ\ベイ」

というものでした。え?それって「黒塀」でしょ。それならアクセントは「平板」で、

「ク/ロベイ」

ではないのか?と思った後に、

「そうか、昔のアクセントは『中高』が主流だったんだ!!」

と思い当たりました。『NHK日本語発音アクセント辞典』『新明解日本語アクセント辞典』とも、「平板」の後に「中高」を載せて、

「ク/ロベイ」「ク/ロ\ベイ」

2種類のアクセントを掲載していました。

きっと昔は中高の「ク/ロ\ベイ」だけで、その後に「平板」の「ク/ロベイ」が出てきて2番目に掲載されて、それの順番が今は逆になっている、というアクセントの変化(入れ代わり)の最終段階に来ているのではないかと思いました。

「黒塀」で思い出すのは、やはり『お富さん』ではないでしょうか。

「♪粋な黒塀 見越しの松に」

「見越し」は「神輿」だとばっかり思っていました。「黒塀」は「粋」なんですね。つまり、幸田文の『流れる』に出てくるような花柳界のお店のような家が「黒塀」で囲まれていたということか。『ジャングル黒べえ』は関係ありません。

十二社の「池」は埋め立てられても、もうしばらく、中高の「ク/ロ\ベイ」のアクセントは、「アクセント辞典」には残しておいてほしいな、と思いました。

 

(2011、10、21)

2011年10月26日 12:43 | コメント (0)