新・ことば事情
4444「列車がカーブを通過します」
大阪市営地下鉄・御堂筋線で、梅田駅から淀屋橋駅の間の真ん中あたりで、こんな車内アナウンスのテープの声が聞こえます。
「列車がカーブを通過します。ご注意ください」
これを聴くたびに思い出すのは、先輩アナウンサーで電車に詳しい(つまり「鉄ちゃん」)羽川英樹アナウンサーのことです。
実はこの車内アナウンス、昔は、
「列車が曲がりますのでご注意ください」
だったのです。それについて羽川さんはいつも、
「あれはおかしい!列車が曲がるのではない、レールがカーブしているのだ!」
と、誰にともなく、かなり強硬に話されていました。私は、
「ああ、たしかにそうですねえ。」
と相槌を打ちながらも、心の中では、
(でも、気にするほどでもないのとちがうかな・・・)
と思っていました。人それぞれ、こだわりのポイントは違うものなのです。
しかし!
羽川さんと同じ「違和感」を持つ人が多かったからでしょうか、いつのころからか、車内アナウンスは、
「列車がカーブを通過します。」
に変わったのです!うーん、信念を持っていると世の中はいつか変わる、ということか?(そんなおおげさなことか?)
しかし!鉄道ネタでは私も負けてはおりません。(鉄ちゃんじゃないけど)
先日、京阪電鉄「北浜駅」で降りたときのこと。ディレクターから指示された仕事(ロケ)先の場所は、
「京阪電車・北浜駅下車、3番出口を出て徒歩3分」
でした。そう書かれたメモを手に「北浜駅」で降りて改札を出ると、その改札(と言っても、ひとつしか改札はないと思う)に一番近い出口には、
「28番」
と書かれていました。
「えー、マジかよ。めちゃくちゃ歩かな、あかんなあ」
と思いながら、それでも元気よく、27、26と数字が減るのを手がかりに歩いて行きました。
かなり地下道を歩いても、なかなか「3番」は出てきません。
「おかしいな、これじゃ『3番出口』は、北浜駅ではなく淀屋橋駅の方が近いんじゃないか?」
関西にお住まいの方の中には、ご存じの方はご存じでしょうが、京阪の北浜駅と淀屋橋駅は地下道でつながっていて、歩いてもせいぜい5、6分という距離なのです。
「17番出口」が見えてきた頃、不安は的中!
なんと「淀屋橋駅」に着いてしまったのです!そこで淀屋橋駅の駅員さんに、
「すみません、北浜駅の『3番出口』ってどこにあるんですか?」
と聞いたところ、
「ああ、それは北浜駅の改札を出てすぐの、"反対側"ですな」
と言うではありませんか!ええ!ずっと数字が減る方へ減る方へ歩いてきたのに反対側?ナンタルチーア!そんなアホな!
で、プンプンむかむかしながら、今来た通路を北浜駅に向けて歩き出しました。地下通路は、節電で冷房が効いていません。流れる汗の中、5メートルおきにあるスーピーカーから大音量で、
「大変ご迷惑をかけております、ただ今人身事故のため、ダイヤが大幅に乱れています。お急ぎのところ大変ご迷惑をおかけいたしております。振り替え輸送のご案内を申し上げます。振り替え輸送は・・・」
というアナウンスが、まるで私を洗脳しようかというぐらいに繰り返し繰り返し流れてくる。仕事場に携帯で電話して、「ちょっと遅れるかも」と伝えようとするのに、スピーカーの音量が大きすぎて、向こうの声が聞こえない。ついにガマンしきれず、駅員室に、
「ちょっとこのアナウンス、何とかなりませんか?仕事先に携帯で電話して電車が遅れていることを伝えようにも、音量が大きすぎて聞こえない。しかも逃げ場なく、5メートルおきに流れて切れ間がない。ええ加減にしてください!」
と、道に迷いながらも言うべき事は言って、北浜駅に到着。既に仕事場への「入り時間」の15時です。しかし!やはり「3番出口」は見つからない。一体どうなんているんだ!?
北浜駅の改札にいた若い駅員さんに聞いたところ、
「ああ、『3番出口』は『京阪電車』じゃなくて、『地下鉄・堺筋線』の方ですから、そこの先の通路を左に曲がった先にあります」
なにー、そんなことどこにも書いてないじゃないか!
「その出口は『京阪』の出口ではありませんで、地下鉄さんのほうの出口なので・・・」
「ほほう、そうですか、じゃあ、『京阪』を利用して『北浜駅』で降りて『3番出口』に出ようとするお客さんは、既に京阪の客じゃないから、どう迷おうが知ったこっちゃないと、そうおっしゃるんですな。」
「そこまでは言いませんが、まあ、・・・」
「それじゃ、地下鉄と連絡通路なんか作るな!塞いどけ!つながっている以上は責任を持って表示しなさいよ、わかるように」
「"上"には、何度か言ってるんですがねえ・・・」
「あなたが"上"に言っても変わらないんですね。じゃあ、あなたに言ってもムダだ。誰に言えば表示をしてくれるんですか?責任者の連絡先と名前を教えてください。直接私が話します」
困った若い駅員さんは、少し年上の駅員さんを呼びました。ところが年上の駅員さんの方がもっと「保守的」で、私の目を見てモノを話そうともせず、ノラリクラリと逃げようとします。(私にはそう感じられました。)そんなことをすれば当然、こちらの怒りは、余計に高まります!
「誰が責任者なんですか!」
「北浜駅には、責任者はいなくて・・・淀屋橋の副駅長ですかなあ・・・」
「副駅長の名前は?」
「○○です」
「連絡先の電話番号は?」
「・・・」
教えていいものかどうか躊躇している年上の駅員の脇から、若い駅員がサッと淀屋橋駅の電話番号を差し出してくれました。
「よし!じゃあ、仕事が終わったら、副駅長に言いに行くから!」
と言い捨てて、仕事場へ。
1時間後。仕事が終わりました。
当然、淀屋橋駅の駅長室に向かい、
「○○副駅長はいますか?」
と言うと、奥の方からのそっと、白髪のおじさんが出てきました。
「2点、要望があって来ました!」
「はあ、伺っています」
既に連絡が届いていたのです。なかなか、やるな。それなら話が早い。
「まず第1点は、構内放送のボリュームが大きすぎる。人身事故で代替輸送という状態での情報は伝えるべき情報だが、その伝え方にもう少し気を配ってほしい。第2点は、北浜駅での『3番出口』を含む『1番から6番出口』は、地下鉄堺筋線側の出口だが、その方向案内を、京阪の『28番出口』などを表示してある京阪・北浜駅の改札を出たところの表示板にも大きく表示してほしい。堺筋線に曲がる手前に、パソコンから打ち出した小さな紙が張ってあるが、あの場所ではなく、改札を出たところに大きく表示してほしい」
と伝えると、
「パネルを作り変えるとなると、お金もかかるので・・・」
と言うので、
「紙でも何でも、わかればいいんだから、すぐに対応してください。見た目がきれいかどうかより、迷う人を減らす方が大事でしょ」
と言うと、
「たしかにおっしゃることとはわかります。すぐに実現できるかどうかはわかりませんが、努力してみます」
という副駅長の答えを引き出せたので、ひとまずはこれでOKと引き下がりました。
2日後。たまたま北浜駅に行くことがあり、京阪の改札を出たところの案内板を見てみると・・・何も変わっていませんでした。
「やっぱりすぐには変わらないのか・・・」
と思ったその時!案内板の横に、ものすごく大きな紙に
「地下鉄堺筋線 1 ~6番出口 →」
という赤い字の表示が張られているではありませんか!
京阪電鉄「北浜駅」「淀屋橋駅」の素早い対応に感謝です。
改札にいたのは、先日とは違う駅員さんでしたが、
「表示、張ってくれたんですね。すぐに対応してくれて、ありがとう!」
とお礼を言っておきました。
話がずいぶんそれたようだけど、つまり、
「言ってみると、世の中変わることもある。黙っていたら、変わらない」
という話でした。