4413「恒産」
團伊玖磨の『パイプのけむり選集・話』(小学館文庫:2011、6、12)の中の「神々の朝」という随筆を読んでいたら、こんな文章が。
「何等の恒産もなく、三人の幼い子供たちを抱えたおばさんは」(249ページ)
この中に出てくる、
「恒産」
という言葉、聞き慣れない感じがします。目にしたことはありますが。これは、
「不動産」
のことなのでしょうか?
辞書(『精選版日本国語大辞典』)を引いてみたら、
「恒産」=(1)一定の財産。ある定まった資産。また、恒常的に入ってくる作物、金銭などをいう。(2)収入の安定した職業。
ああ、全然違いましたね。たしかに「不動産」を持っていれば「恒産」と呼べるかもしれないが、根本的に違う気がする。そしてこの「恒産」を使った慣用句として、
「恒産なき者は、恒心なし」
が載っていました。「孟子の言葉」だそうです。意味は、
「定まった財産や決まった職業のない人は、定まった正しい心がない。物質生活は人の心に大きな影響を持つもので、それが安定しないものには確固とした道徳心もない。恒(つね)の産なきは恒の心なし。」
そ、そこまで言い切らなくても!フリーターの立場はどうなる!・・・しかしたしかに、
「衣食足りて礼節を知る」
という言葉もありますが・・・。この慣用句は、芥川龍之介の『侏儒の言葉』(1923-27)の中にも出てくるようです。