新・ことば事情
4410「満身創痍と注入」
最近よく見かける、手書きで書くのはちょっと難しそうに見える四字熟語は、
「満身創痍」
です。そんなに難しい漢字はないけれど、「痍」が表外字なのと、全体的に画数が多いので、難しく見えます。
どういったところで出てくるかと言うと、まず『週刊文春』(7月21日号)の記事で、菅総理大臣が、7月6日の衆院予算委員会で早期退陣か衆院解散を求めた渡辺喜美・みんなの党代表に対して、
「大きな激励と受けとめた。満身創痍、刀折れ、矢尽きるまで、私の力の及ぶ限りやるべきことをやっていきたい」
と答えたと載っています。つまり「菅総理」が自身のことを指して「満身創痍」となるまで頑張ると言っていますが、既に「満身創痍」でしょう。
もうひとりの「満身創痍」は、7月19日の琴欧洲との取り組みに敗れたあとに「引退」を表明した大関・魁皇。7月20日の読売新聞朝刊では、
「まさに刀折れ矢尽きたという表現がふさわしい。(中略)満身創痍の体。最後の心の支えとして目標にしてきた最多勝記録を更新し、気持ちの張りが失われた面もあるのだろう。」
と、菅総理と同じ「刀折れ矢尽きた」という表現と一緒に出てきました。
魁皇関には、「お疲れ様」と言いたいですが、菅総理は・・・ねえ。サッカー女子ワールドカップで初優勝を遂げた「なでしこジャパン」の表敬訪問を受けて、
「あきらめないことの大切さを学んだ」
というようなことを言ったそうですが、菅さんが「なでしこ」から学ぶべきは、
「チームのために身を挺して"一発退場"となった、岩清水選手の態度」
ではないか、という声もチラホラ。
さて、もう一つよく目にする・耳にするのは、
「注入」
という言葉。もちろん、福島第一原発の事故関連で、
「冷却水を注入」
したり、
「窒素を注入」
したり、やたらいろんなものを「注入」します。
東日本大震災の前に「注入」と聞いて思い浮かべたのは、例の、
「ラブ、注入♡」
というギャグ(?)のフレーズでしたが。
「注入」という文字は簡単だけれども硬めの表現の、普段の話し言葉への「そぐわなさ」を感じます。
「満身創痍」なのは「日本という国・全体」なのかもしれない。そこに「なでしこ」が「元気を注入」してくれたのは確かです。「やる気」が出たことで、しっかりと前を見据えて、足元の仕事をやっていきたいと思います。