新・ことば事情
4405「靴箱」
『ミヤネ屋』の女性ナレーターのNさんから質問を受けました。
「先日『靴箱』という言葉が出てきて、念のためアクセント辞典を引いてみたら、載ってなかったんです。それで『広辞苑』『大辞林』とか国語辞典も引いてみたんですけど、『下駄箱』は載っていても、『靴箱』は載ってなかったんですが・・・。」
「ええ!?そうなんですか?」
と、私も手許の電子辞書2冊で、『広辞苑』『明鏡国語辞典』『デジタル大辞泉』『NHK日本語発音アクセント辞典』『精選版日本国語大辞典』の5種類の辞典を引いてみたところ、かろうじて『精選版日本国語語大辞典』にのみ、
「くつばこ(靴箱・沓箱)」=履き物をぬいで、しまっておく入れ物。靴入れ。
として載っていました。「用例」は1755年の「談義本」からでした。
あとで、ほかの辞書も引いて見ましたが、『新明解国語辞典』『新潮現代国語辞典』『岩波国語辞典』『新選国語辞典』『三省堂国語辞典』にも「靴箱」は載っていません。
『三省堂国語辞典』の「下駄」の用例の中に、
「下駄箱(=今はくつを入れる)」
とあるのですが、つまり「靴」を入れてしまう箱は、今も「下駄箱」と呼ぶという解釈のようです。その意味では、「筆」は入っていないのに、今も、
「筆箱」
と呼んで、「鉛筆箱」とは言わないようなものでしょうか。それとは別にカタカナ語で、
「ペンケース」
という呼び名も普及していますが。
売っているものが変化することによって、名前が変わっていっている店もあります。たとえば、
「レコード店」
「レコード」が音楽を聴くためのメディアとしての座を「カセットテープ」と分け合っていた時点ではまだ「レコード店」でしたが、「CD」に譲った時点で、一般的には、
「CDショップ」
に。(もちろん、レコードをほとんど売ってなくても「レコード店」「レコード屋さん」と呼んでいる人はいましたが。)
さらに、「ミュージックビデオ」など「映像メディア」も取り扱うようになってからは、
「ミュージックショップ」
に名を変えました。その後、「携帯オーディオプレーヤー」の普及で、「ミュージックショップ」でCDやDVDを買うのではなく、「パソコンで音楽ソフトをダウンロード」する人が増えてきているのが現状ですね。
というように、中身が変わると呼び名が変わるものがある一方で、中身は変わっても呼び名は変わらないものもあると。
今度、そのあたりを詳しく、実際の言葉を集めてみたいと思います。