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『道浦TIME』

新・ことば事情

4361「心臓がバクバクする」

 

アメリカ在住のI先輩から久々にメールが。

「最近、TVや映画の中のセリフ、特に若い人の間で、

『心臓が(胸が)バクバクする』

という表現を耳にします。胸や心臓は、『ドキドキする』ものだと思っていましたが、『バクバク』は、いつごろ、どういう経緯で発生し、広がったのか、そのへんをご教示いただければ幸いです。」

たしかに、もう何年も前から若者言葉としては、

「心臓がバクバクする」

という表現は聞いたことがあります。甲南大学で学生に聞いたところ、大体の学生は「ドキドキする」を使うとのことでしたが、2人ほど

「『心臓がバクバクする』を使う」

とのことでした。そこで「使い分け」について聞いてみると、

「『バクバク』の方が『ドキドキ』よりも程度が激しい場合に使う」

とのことでした。納得。

その後自分でも考えてみたところ、「バクバク」には、

「漢字のイメージの『爆(発)爆(発)』があるのでは?」

と思いました。つまり、「心臓が破裂しそうな感じ」その意味では「擬態語」ですね。一方の「ドキドキ」「擬音語」。実際に心臓の音は「ドクン、ドクン」と聞こえるし、それが早くなると「ドキドキ」って聞こえます。あまり「バクバク」とは聞こえません

「バクバク」で思い浮べるのは「大食い」です。「パクパク」よりも「勢いよく」「大量に早く食べる」イメージです。その一方で「行儀」は悪い。つまりその、

「掟破り的なイメージ」

も、「心臓がバクバクする」という表現にも付与されているのではないでしょうね?

54日にgoogle検索したところによると、

「心臓がバクバクする」=182000

「心臓がドキドキする」=311000

「心臓がバクバクした」= 68800

「心臓がドキドキした」=107000

で、まだ「ドキドキ」の方が「バクバク」よりも使われているようですが、両方、血行・・・いや、結構使われています。「体言止め」で見てみると、

「心臓がバクバク」=159万件

「心臓がドキドキ」=134万件

「心臓がドックンドックン」=14300

「心臓がバックンバックン」=23300

でした。「体言止め」だと「バクバク」の方が「ドキドキ」を上回っています。

今後の使用状況の推移に「胸がドキドキ」です。あ、「ときめく」場合は「ドキドキ」ですね。「バクバク」は胸がときめく場合には似合わないです。これも「程度問題」なのでしょうかね?

あ、結局「いつごろから、どういう経緯で広がったか」については、今後の課題ですね。(わかりませんでした。)すみません。乞うご期待!

 

                                               (2011、5、17)

 

 

(追記)

以前自分で調べて書いたものを読んでいたら、「胸がドキドキすること」を、

「だくめく」

とも言うそうです。この「めく」は接尾語なので、「だく」は「どきどき」でもなく「どくどく」でもく、

「だくだく」

するところから来ているのでしょうね。詳しくは「平成ことば事情4140 秋めくの『めく』」をお読みください。(あんまり詳しくないけど。)

(2011、6、3)

 

(追記2)

佐野洋子さんの『死ぬ気まんまん』(光文社:2011625に収録されている「知らなかった」(『婦人公論』19981022日号・117日号に掲載)を読んでいたら、

「心臓がバクバク」

が出てきました。

「心臓がバクバク動悸がしてしぼり上げるように痛くなり、立っていられなくなって息ができなくなる。いつもマラソンを走り終わった時のようなのである。」123ページ)

「ン、すっごく素敵なの。会うだけですーっと気持ちがグニャグニャにいい気持ちになるの。その時は、心臓バクバクしないんだから。それで、薬がすっごく効くの。」127ページ)

ということで、1998年には既に「心臓がバクバク」は使われていたようです。                   (2011、6、27)

 

 

(追記3)

映画化された『夜明けの街で』(東野圭吾、角川文庫:20107251刷・201191016刷・単行本は20076)。先日、主演の岸谷五朗さんが「ミヤネ屋」に出演してくれました。この原作の小説を読んでいたら、こんなシーンで、 

「心臓がばくばくし始めた」

と、平仮名の「ばくばく」が出てきました。それは主人公の男の元へ、不倫相手の父親・仲西から会社に外線の電話があり、「お尋ねしたいことがある。どこかで会えないか?」というシーンです。その電話を聞いて主人公は、

「心臓かばくばくし始めた。女性と付き合っている男にとって、相手の父親と会うというのは、出来るなら避けたい状況の一つに違いない。ましてや僕の場合は不倫なのだ。」

と独白しているところです。著者・東野圭吾の語彙に、

「心臓がばくばく」

があるということですね。「ドキドキ」は期待を込めた「プラス」感覚、「ばくばく」は不安な心理を表す「マイナス」の表現のように感じます。このシーンで「ドキドキ」を使うと、ニュアンスが変ってくるのではないでしょうか。

(2011、9、23)

(追記4)

『鉄の骨』(池井戸潤、講談社:20091071刷・2010107刷)を読んでいたら、「心臓がばくばく」が出てきました。

「緊張し、心臓がばくばく音を立てるほど興奮し、目の当たりにした初めての入札。」

心臓の音、「ばくばく」。

(2011、10、31)

(追記5)

『ビッグコミック・オリジナル』(2013年8月10日号)に連載されている「総務部総務課 山口九平太」(原作・林律雄、作画・髙井研一郎。これももう20年以上連載されているんじゃないですか?長いなあ。『島耕作』みたいに出世しないし、年も取らないよね、結婚もしないし。『サザエさん』のように時間が止まっている。)で、テーマは「電話」。その中で年配の「課長」が、

「そうそう、女の子に電話するときなんて、もう心臓がバクバクしちゃってね。」

と言うシーンがありました。え?この年代のおじさんでも「バクバク」を使う?と、ちょっと新鮮に感じました。「ドキドキ」じゃないんだ。

(2013、8、5)

(追記6)

『週刊文春』2013年8月1日号の65ページに載っている「ノイ・ホスロール」という薬の広告の見出しが、

「人前での発表...不安で胸がバクバク。」

とありました。「救心製薬株式会社」のお薬です。その効能というか、どういう時に飲めばいいかと言うと、

●人前で発表するとき 胸がバクバクする。

●プレゼンなどが 不安でドキドキする。

●神経が不安定で パニックになる。

そういった精神不安や動悸に優れた効き目を発揮するそうです。

(2013、10、13)

 

 

 

 

 

 

 

(2011、6、27)

2011年5月17日 02:06 | コメント (0)