新・ことば事情
4341「正しく怖がる」
福島第一原発の事故に関して、
「見えない敵・放射能」
について、このところよく耳に、目にするのは、
「正しく怖がれ」
という言葉です。むやみに恐れることなく、しっかりと知識を持って判断しようということですが、なかなかこれは難しいことであるのも事実です。
そんな中、最近読み始めた、
『〈麻薬〉のすべて』(船山信次、講談社現代新書:2011、3、20)
という本の「はじめに」で触れている言葉に目が止まりました。
「ものをこわがらな過ぎたり、こわがり過ぎたりするのはやさしいが、正当にこわがることはなかなかむつかしいことだと思われた。」
という一文。これは、
『寺田寅彦随筆集 第五巻』(小宮豊隆編、岩波文庫:1948、11、20第1版・1999、6、25第66版)
の中にある、浅間山の噴火に際して寺田が書いた随筆、
「小爆発二件」
の中に出てくるのです。これが書かれたのは、昭和10年(1935)11月。今から75年以上前に、こんなに正しく真理を言い当てている、さすが、
「天災は忘れた頃にやって来る」
という名言を生み出す発言をした人だなあと感服しました。それと同時に、人間って、全然進歩していないのかなあ・・・と少し悲しくなりました。
(追記)
4月14日の産経新聞の「寒蛙(かんがえる)と六鼠(むちゅう)」というコラムで、長辻象平さんという論説委員の人が、
「『正当にこわがる』難しさ」
と、まさに同じことを、同じ寺田寅彦の『小爆発二件』から引いて論じていました。まとめは、
「『日本人は災難を食って生き残ってきた種族』だと寺田は言う。今回も日本のたくましさを示そうではないか。」
と鼓舞して結んでいました。
(2011、4、19)