新・ことば事情
4339「トレンチ」
福島第一原発で、2号機のタービン建屋の外にある、
「トレンチ」
と呼ばれる溝に、高濃度の放射線物質を含む水が大量に溜まっていることがわかりました。
それを報じた3月29日の朝刊各紙の表現が異なりました。
(読売)トレンチ
(毎日)トレンチ
(産経)トンネル
(朝日)坑道
(日経)坑道(トレンチ)
「トレンチ」「トンネル」「坑道」の3種類の表現があるのです。
読売新聞の「トレンチ」の説明は、
「トレンチはコンクリート製で、機器の冷却や非常用の発電機などに使う海水を送る配管が複数通っている。」
というものでした。日本テレビ系列は、簡単な説明を加えて「トレンチ」を使いました。また3月30日のNHK朝9時のニュースでは、
『「トレンチ」と呼ばれる配管などを通す溝』
と、カギカッコを付けて説明付きの「トレンチ」を使っていました。
そもそも「トレンチ(trench)」には、
(1)(深い)溝、堀(細長い)くぼみ
(2)<軍>[しばしば~es]塹壕(ざんごう)
(3)<地理>海溝
という意味があります(「ジーニアス英和辞典」)。そして、「トレンチ」と聞いてすぐに思い浮かべるのは、
「トレンチコート」
ですが、これは実は軍事用語の「塹壕」から来ていると、何かの本で読んだことがあります。第一次世界大戦で登場した新しい兵器の一つに「マシンガン(機関銃)」があり、これを効果的に使うために掘られた溝が「塹壕」であると。そしてその塹壕に潜んでいるときに、寒さや雨に耐えるために作られたコートが「トレンチコート」だと。たしかそういう話でした。
『広辞苑』を引くと、
「(第一次世界大戦のときイギリス兵が塹壕内で着たコートから発展)ダブルでベルトつきのコート。」
とありました。しかし今回の原発事故のトレンチへの対策として、残念ながら「トレンチコート」は役に立ちそうにありません・・・。