新・ことば事情
4307「さがんさん」
社内に訃報が回ってきました。
その喪主の方の名字を見て「!?」と思いました。漢字一文字で、
「目」
と書いて、読み方は、
「さがん」
なのだそうです。漢字は簡単だけど、読み方は超難しい!これは普通、読めないのではないでしょうか。フランス人のような名前です。悲しみよ今日は。
想像でしゃべると、「左目」のことを「さがん(左眼)」といいますから、そこからきたのでしょうか?それにしても珍しい名字ですね。
「名前占い」のサイトでは「目」という名字は全国で184戸と。読み方は、「さがん」以外にも、
「さつか」「さがみ」「さっか」「さかん」
などがあるようです。へえー。
(2011、2、11)
(追記)
読者の本杉明さんという方からも書き込みを頂きました。それによると、
「『目(さがん)』は官位の一つで、古くは養老令に記載があります。姓としての『目』はこの官位名称が起源ではないかと思われますがいかがでしょうか。」
なるほど、古い官位の一つなのですか。「養老令」って、いつでしたっけ・・・?あ、「養老律令」か。おお、藤原不比等、養老二年というから、西暦に直すと718年!そんな昔の官位が名字に!すごいですね!(まあ、「藤原」さんは、今もいますけど)
そのあと今度はNHKの原田邦博さんからもメールを頂きました。
『「目」を「さがん」と読むのは、多分、律令制度の
「四等官(しとうかん)」
に端を発すると思います。「四等官」は、上から
「かみ」「すけ」「じょう」
それに最下位は、
「さかん」
で、役所によって使用する文字がそれぞれ異なります。現在の「左官屋さん」の「左官」もその名残です。当時「国司」の「さかん」には「目」という字が使われましたので、その「さかん」が「さがん」となったのではないでしょうか。現在、人名の「すけ」にいろいろな漢字が当てられるのも、この「四等官」の「すけ」の文字から来ています。』
ありがとうございます。「四等官(しとうかん)」を、今度は調べましょう。(『精選版日本国語大辞典』)
「四等官」=令制の諸官司を構成する職員の等級。令制諸官司は、長官(かみ)・次官(すけ)・判官(じょう)・主典(さかん)の四つの等級の職員で構成されるのが原則であって、長官はその宮司を統括し、次官はこれを補佐し、判官は事務的な処理などのジツムにあたり、主典は文案の起草などの雑務にあたる。このほかに史生などの下級職員が付属する。各宮司によって四等官のそれぞれの相当する位階が定められており(官位相当)、あてられる時も異なり呼称も違うことがある。四分官。四部官。
原田さんのおっしゃるとおりですね。「四等官」の字もいろいろあるようです。
「かみ」は「土佐守」「肥後守」の「かみ」と同じ、「じょう」は「尉」という字も見たことがあるし、また「九郎判官義経」の「判官」の字をあてることもあるのですね。
「さかん」も引いておきましょう。
「さかん(主典)」=(「佐官」の字音)令制四等官の再開。上に長官(かみ)、次官(すけ)、判官(じょう)がある。文案を草し、公文書の抄録・読申をつかさどる。宮司によって自我異なる。そうかん。しゅてん」
ついでに「目」を「さかん」「さがん」と読むのかどうか、ここは『新潮日本語漢字辞典』の出番ですね。
「目」=モク・ボク : め・ま・さかん(さくわん)
おお、ちゃんと「さかん」が載っています!10番目の意味として、
「さかん。主典。律令制の四等官のうち第四位。属する官によって使用する字が変わるが国に属する場合「目」の字を使う。「大目(おおきさかん)」
そう言えば小学校(大阪・堺市)の時の同級生に、
「大目さん」
という女の子もいたな。読み方はそのまま「おおめ」さんだったけど。
さらに「人名」としての「目」の読みも、この辞典には載っています。
「さがみ・さかん・さがん・さっか・まなこ」
あ、これは最初の「名前占い」のサイトと同じだ。
それにしても、社内の訃報の回覧から「四等官」、藤原不比等まで遡ってしまいました。勉強になりました!辞書は、持ってるだけじゃダメだね、使わないと・・・。
コメント
目は官位の一つで古くは養老令に記載があります。
姓としての目はこの官位名称が起源ではないかと思われますがいかがでしょうか。
投稿者: 本杉 明 日時:2011年02月23日(水) at 00:41