新・ことば事情
4301「吹き抜く」
車の中でNHKのラジオを聴いていたら古い歌がかかっていました。和田弘とマヒナスターズと吉永小百合が歌う『寒い朝』という曲。ああ、時代を感じるなあと思いましたが、その歌詞の中の言葉に「うん?」と思いました。曲の冒頭の歌詞、
「北風吹き抜く」
です。「吹き抜く」って言葉あるのでしょうか?普通は、
「吹き抜ける」
では?と思ったのです。「吹き抜け」があるから「吹き抜く」もあるのかな?
『広辞苑』『明鏡国語辞典』『三省堂国語辞典』『新潮現代国語辞典』『岩波国語辞典』『デジタル大辞泉』『新明解国語辞典』には「吹き抜く」という見出し語は載っていませんでした。辛うじて『精選版日本国語大辞典』には見出し語で載っていました!
「ふきぬく」=(1)風が激しく吹きつけて、木や物を吹き倒す。
この用例は『平家物語』(13世紀前半)でした。そして2番目の意味としては、
(2)金貨に混じっている銀、銀貨に混じっている銅を抜き取って、貨幣を純化する。
としてこの用例は『政談』(1727年頃)でした。『寒い朝』の「北風吹き抜く」は(1)の意味ですね。
ここから考えるとやはり「吹き抜く」は「文語」で、「口語」ではないですね。道理でなじみがないはずだ。いわゆる「歌謡曲」「流行歌」にこういった「文語」が混じることは、以前はよくあったと思われますが、最近はあまり耳に(目に)しない気がします。日本語でさえ目にしないんだから・・・。
ちなみに『寒い朝』は、1962年(昭和37年)の作品でした。