新・ことば事情
4233「腕ぶす2」
平成ことば3548事情で書いた「腕ぶす」。これの続報です。
講談社が出している小冊子『本』の2010年8月号(だったと思う)のエッセイ「漢字雑談 8」で、高島俊男さんが、
「腕ぶす得意舞台」
というタイトルの一文を書いてらっしゃいました。神戸の山口正邦さんという人が2010年7月28日の産経新聞に、
「藍、腕ぶす得意舞台」
という記事を見つけたと。これを山口さんの奥さんが、辞書を引いても意味が分からず、
「腕がブスとは腕の格好が悪いことかと言っております」
という内容で、これに対して高島さんは、一刀両断、
「これは産経が悪い」
と。そして、
「『ぶす』は非常識である。『撫す』と漢字で書くべきところである。そう言うと産経新聞は多分、『撫』の字は常用漢字外だからかな書きをしたのだ、と言うことだろう。しかしそれならば、そもそも『撫す』などという言葉を使うのがまちがいなのである。と言って、『腕なでる得意舞台』では意味をなさないから、そこは『張り切る得意舞台』とか、『意気込む得意舞台』とか、別の言い方を考えるべきところだ。」
「『腕を撫す』という語は、諸賢とくにご存じのように、腕に自信ある者が、この腕を発揮するよき機会あれかし、とはやる気持ちで腕をさする意である。一見漢語由来のように見えるが、漢語に『撫腕』という語はない。類似の表現もない。これはまったく日本人が作った語、それもごく新しい語である。もっとも『腕をさする』という言い方は室町ごろからある。これに二十世紀の日本人が『撫』の字をあててそれを音(おん)で読み、『腕を撫(ぶ)す』という語を作ったものらしい。」
と書いています。
そうだったのか。確かに、わざわざこんな難しくて通じない言葉を使う必要はありませんものね。
それにしても産経新聞のスポーツ面の編集をしている人の中には「腕撫す」が好きな人が、確実にいるな、これは。