新・ことば事情
4231「キモ」
もう旧聞ですが・・・今年3月のこと。アメリカ在住のI先輩から、こんなメールが届きました。
「最近、『肝』ということばを、『大事なもの』『「肝心なこと」という意味でよく見聞きします。道浦さんも読書評で『この本の肝は・・・』として使っておられます。この使用法は正しいのでしょうか。『広辞苑』にも載っていないのです。新しい用法でしょうか。もちろん、『肝心』というのは、『肝』も『心』も大事なものだからですが、それを切り離して、『肝』だけで使うというのは『あり』でしょうか?この用法に気づいたのは、ここ2、3年ですが、なにか流行語的に誰かが使いだしたのでしょうか?』
お、タイムリーだなあ。ちょうどこの前、新聞で「キモ」に関するコラムを読んだばかりでした。そこで、こんな返事を出しました。
「私も『肝』、使ってましたか。それほど意識はしていませんでしたが・・・。
実は、読売新聞の金曜夕刊で連載されている『いやはや語辞典』というコラムで、今年の3月13日に東大の例の上野千鶴子先生が、
『キモ~無教養な「平成言文一致」』
というタイトルで書いてらっしゃいます。
おそらく東大の学生が、リポート(つまり「書き言葉」)で、
『この論文のキモは・・・』
と書いてきたので、
『リポートにはこういった表現は使わないものよ』
と注意したら、
『どうしてですか?』
ときょとんとしていた、という書き出し。まとめは、
『やっぱ、言葉も教養がキモだと思うけど・・・』
というもの。こうやって書かざるを得ないぐらい、増えているのでしょうね。
2011年度版の『現代用語の基礎知識』では『キモ』を取り上げようと思います!!」
ということで「キモ」です。「キモい」とは関係がないと思いますが。
こんな感じで、11月17日発売の2011年版の『現代用語の基礎知識』に載せました。ほんまか、ウソか、確認のために買って読んでみてください。
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「大事なこと」「肝心なこと」という意味で使われる「キモ」。「この話のキモは・・・」のように使うが、『広辞苑』には載っていない。「肝心」の省略形としての俗語。2010年3月13日付読売新聞夕刊の連載コラム『いやはや語辞典』で、東大上野千鶴子教授が「キモ~無教養な『平成言文一致』」というタイトルで書いている。それによると、学生がリポート(=「書き言葉」)で、「この論文のキモは・・・」と書いてきたので、「リポートにはこういった表現は使わないものよ」と注意したら、「どうしてですか?」とキョトンとしていたという話。まとめは、「やっぱ、言葉も教養がキモだと思うけど・・・」というもの。「話のキモ」でグーグル検索すると(2010年9月6日)99万9000件出てきた。それによると2004年ごろには既に使われている。2008年1月に出た『三省堂国語辞典・第6版』では「きも(肝)」の4番目の意味で「(ふつう「キモ」と書く)【俗】いちばん肝心なところ。ねらい。」という意味を載せているから新しい用法かと思われたが、『精選版日本国語大辞典』では6番目の意味として「物事の重要な点。急所」という意味を載せ、用例はなんと『長短抄』(1390年)から引いている。古いよう方が現代によみがえったのかもしれない。