新・読書日記 2010_214
『リスクに背を向ける日本人』(山岸俊男+メアリー・C・ブリントン、講談社現代新書:2010、10、20)
北海道大学大学院教授の山岸氏と、ハーバード大学院社会学部長のメアリー・部リントンさんの対談集。論文になるとどうしても堅くなってしまうので対談形式でわかりやすく、ということのようです。二人はアメリカの大学に山岸氏が留学していた時の同級生。
「日本人はリスクに背を向ける」というが、確かにそういう傾向はあるだろう。ただそれは本書でも書かれているとおり、日本の社会の仕組みが、「失敗」に対するセーティーネットを用意していないからで、必然的に「大きなリスクを取りたくない」方向に進むのではないか。最初から「失敗しない方向」に向いてしまう。
例えば「健康保険」は「万が一、病気になったときのために」整備された制度である。「私は病気になんてならない」という自信があれば、そんな費用はかけなくてもよいし、制度も必要ない。「予防」として「万が一のために備えている」のが、日本の保険制度で、アメリカにはこれまでこういった制度がなかったのは、「病気になんてならない」もしくは「なったら、なったときに考える」という極めて「楽観的」な思考回路によるものではないか。多くの日本人は、そこまで楽観的には、なかなかなれない気がする。
「リスクに背を向ける日本人」というタイトルは、「日本人のそういった性格を批判」しているように思えるが、はたして、批判されるようなものなのだろうか?
また、読んでいて、「ほお」と思ったのは、
「アメリカには、『結婚しない』とか『引きこもり』はない」
「古い家族制度の残るアジアの国々で出生率が低い」
というあたり。「個人主義」で、大人の年齢になったら(親の)家を出るのが当たり前であれば、確かに「引きこもり」にはなれない。引きこもっていても生きていける食事やその他の世話をやってくれる誰か(=親)が一緒に住んでいないと、引きこもれないからだ。
また、「倫理」は「武士道、騎士道、社会的ヒエラルキーを支える統治者の論理」であり、一般人は「商人の道、プロテスタンティズム、石田梅岩の心学、WinーWinの関係」とも書かれていた。日本では「倫理」に走るが、「商人の道」も必要という山岸氏の話には、一瞬「そうか!」と思ったが、よく考えると、「商人の道」に走りすぎたのが「バブル崩壊」であり「リーマンショック」なのだから、結局は「バランス」なのではないか。