このところメディアに頻出している
「TPP」
ですが、「日本語での言い換え」はどのようにされていますか?
(1) 環太平洋経済連携協定
(2) 環太平洋経済パートナーシップ協定
(3) 環太平洋戦略的経済連携協定
(4) その他(具体的に・・・)
というメールを用語懇談会参加の各社に送りました。
テレビを見ていると、11月5日の夜のNHKの番組では、
「環太平洋パートナーシップ協定」
と言っていました。また菅総理は、10月1日の所信表明演説で、
「環太平洋パートナーシップ協定」
と言っていました。ただNHKは「EPA」は「経済連携協定」と言っていたのですが、どちらも「P」は「パートナーシップ」の頭文字だと思うのですが、そろえなくていいんですかね?
メールの返事が各社から来ました。それらを総合しますと、テレビ局は3通りに分かれているようです。
(1) 「環太平洋経済連携協定」 =日本テレビ、テレビ大阪
(4)*「環太平洋パートナーシップ協定」=TBS、毎日放送、NHK
*「環太平洋経済協定」 =テレビ朝日、朝日放送、フジテレビ
一方、新聞社は、現在4通りあるようです。
(1)「環太平洋経済連携協定」=読売新聞、日経新聞
(3)「環太平洋戦略的経済連携協定」=産経新聞
(4)*「環太平洋パートナーシップ協定」=朝日新聞、毎日新聞、
*「環太平洋連携協定」=共同通信、時事通信、中国新聞、神戸新聞、山陽新聞、京都新聞、報知新聞
各社個別のお返事は以下の通りです。
<日本テレビ>
(1) 環太平洋経済連携協定を使っています。
<NHK>
NHKでは「環太平洋パートナーシップ協定」とし、「経済」は入れていません。
<MBS>(TBSに準拠)
TPP=環太平洋パートナーシップ協定
<テレビ朝日>
初出の場合、原稿上は「TPP=環太平洋経済協定」
もしくは「TPP=環太平洋パートナーシップ協定」
英語では「Trans-Pacific Partnership」
もしくは「Trans-Pacific Strategic Economic Partnership」ですが、
直訳すると意味も分からなくなり、漢字ばかりになるためです。
極力、文字数を減らして視聴者から敬遠されないようわかりやすく努めた結果です。
実際の放送では「環太平洋経済協定」しか使っていません。
<朝日放送>
弊社の回答は(4)です。「環太平洋経済協定」で統一しています。
テレ朝/ANNの表記基準に沿ったものです。弊社報道のネタ元には、ほかに朝日と時事がありますが、朝日は「環太平洋パートナーシップ協定」時事は「環太平洋戦略的経済連携協定」と送稿してきます。原義的には時事が正しく、英語を直訳していますね。それでも、ラジオ・テレビとも「環太平洋経済協定」で放送します。
<フジテレビ>
TPPはフジテレビの報道では連携も省略して「環太平洋経済協定」でもいいということになっています。理由「長すぎるから」だそうです。
<テレビ大阪>(テレビ東京系列)
(1)で統一。
一方、新聞各社は・・・・
<読売新聞>
以前は、「環太平洋戦略的経済連携協定」でやっていましたが、現在は、「環太平洋経済連携協定」としています。表記が簡潔、原語の意味に即している、が理由です。
<朝日新聞>
朝日は「環太平洋パートナーシップ協定」でほぼ直訳ですね。「経済」とか入れない理由については聞いていません。とりあえず現状だけ。
<産経新聞>
記事の初出に「環太平洋戦略的経済連携協定(TPP=トランス・パシフィック・パートナーシップ)」として、その後は「TPP」単独で使用という「用語統一」をしています(10月22日~)。少々長い説明ですが、まだ、この言葉自身、まだ、湯気ほかほかの状態で、日本語訳だけでもぴんと来ないと思われます。各出稿部協議の上、用語統一をしたもようです。
<毎日新聞>
弊紙は「環太平洋パートナーシップ協定」でやっております。理由は(ちゃんとしたものではありませんが)「カタカナそのまんまでも、わかりにくくはないだろう」ということです。
<中国新聞社>
初出で「環太平洋連携協定(TPP)」、次出から単に「TPP」と表記している。共同通信社の表記に合わせている。10月30付朝刊まで「環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)」としていたが、替えた。政府が「環太平洋連携協定(TPP)」と表記しているから、とのこと。
<神戸新聞>
本紙は共同通信に準拠しています。ちなみに共同は「環太平洋連携協定」です。
<山陽新聞>
当社では共同通信社の表記に準拠し、
「環太平洋連携協定(TPP)」
としています。最近は自社原稿でもしばしば使われていますが、同じ表記です。また、当地域のケーブルテレビやFM放送などへ提供している放送用原稿でも、同様に、「環太平洋連携協定=TPP」として送信しています。
<京都新聞>
「環太平洋連携協定」と日本語表記しています。共同通信の配信を、そのまま使用しています。共同は最近まで「環太平洋戦略的経済連携協定」でしたが、「戦略的」と「経済」を除きました。文字数削減のためと思われます。
そして報知新聞の方が、新聞・通信など全体をまとめてくださいました。
<報知新聞大阪本社>
主なマスコミ各社のTPPの訳し方ですが、下記のようになっています。
1 環太平洋戦略的経済連携協定=産経新聞、時事通信。
2 環太平洋経済連携協定=読売新聞、日経新聞。
3 環太平洋連携協定=共同通信。
4 環太平洋パートナーシップ協定=朝日新聞、毎日新聞、NHK。
上から順にくだけた感じの言葉使いになっていきます。
Trans-Pacific Strategic Economic Partnershipの略語なので、1が正確な日本語訳だと思います。2を使っている社は、戦略的という言葉がなくても意味的には問題ないという判断を しているのではないでしょうか。意味が通じるなら、なるべく簡単な言葉を使いたいという考え方です。3には経済という言葉がありませんが、これはTrans-Pacific Strategic Economic Partnershipの略語であるTrans-Pacific Partnershipを日本語に訳しているためです。4は、新聞社の場合は漢字ばかり続くのを避けるため、NHKの場合は視聴者の耳あたりを柔らかくするためでしょう。3と4には経済という言葉が含まれていません。
ちなみに、わが社のようなスポーツ新聞や地方紙は、自社でTPP絡みの原稿を書くことはまずありません。通信社のニュースをそのまま流しているため、共同と契約している社は「環太平洋連携協定」と表記しているはずです。
(なお、時事通信は報知の方が調べてくださった後に、「環太平洋戦略的経済連携協定」から「戦略的」を抜いて「環太平洋経済連携協定」につい最近変更したと、11月18日に開かれた新聞用語懇談会周期合同総会の席で、時事通信の方に伺いました。)
ということでした。揺れている表現と言えるでしょうね。
なお余談ですが、11月19日夜11時台のNHKの「Bizスポ」という番組で、鹿野道彦農水相にきくというコーナーで、鹿野農水相は「TPP」を、
「てーぴーぴー」
「FTA」を、
「えふてーえー」
と発音してらっしゃいました。かわいかったです。
(2010、11、19)