新・読書日記
『米中逆転~なぜ世界は多極化するのか?』(田中宇、角川Oneテーマ21:2010、6、10)
難しいテーマ。著者の田中宇(さかい)さんは、面識はないが同い年。繊維メーカー勤務を経て共同通信社。その後マイクロソフト社で「MSNジャーナル」を立ち上げた。フリーになって、「タリバン」「イラク」「アメリカ以後」などなどの著作があり、何冊かは読んだことがあるが、「深く詳しく取材をしているな」という印象で、大変勉強になった。
この本は、ちょうど夏休みでドバイに行っている最中に読んだ。
「米中逆転」は、今までの「パックス・アメリカーナ」の盟主であるアメリカが、単純に中国にその座を明け渡すという形ではなく、今後の世界は、アメリカの「一国リーダー主義」的な形から、中国などを中心とした「多極的な指導体制」への変化にあるのだという主張。その端的な萌芽は、リーマン・ショック後の世界経済の主導権が、英米主導の「G8」から、多くの新興国・発展途上国が参加した「G20」に移ったことに象徴されると。そうか「G8」→「G20」への変化は参加国が増えたということだけでなく、もっと「質的な変化」の象徴だったのか!と「芽からウロコ」状態であった。(ちょっと冒頭部分だけ読むと「トンデモ本」というか、「陰謀説」風の本に見えるが、そうではないと思う)
また、中国は全世界を支配しようというハラはなく、せいぜい「アジアの盟主」であろう。アメリカはこれまでの全世界から「南北アメリカ大陸の覇者」という「地域盟主」になり、ヨーロッパは「EU」。それぞれがある意味"分担して"世界を統治すると。その中で日本は「対米従属」から、アジアにおいての盟主・中国のもとで、いかにポジションを確保するかということを考えなくてはならない。民主党・小沢前幹事長の訪中や、鳩山前総理の外交政策は、その意味で一貫して「アメリカ→中国」へ軸足を移す世界の動向に合ったものであり、沖縄の米軍基地・普天間飛行場の問題も、そういった視点で考えていかなくてはならない。当然、日米安保条約のあり方も考え直す必要がある、というように、巨視的な世界の動きの中での日本のあり方について触れた一冊。
「へえー」という箇所のページを折り曲げていたら、本の上半分が膨れ上がってしまった。
そして、ドバイ。関西空港からドバイへの直行便を運航しているエミレーツ航空の機内から、なんだか「近未来」的な感じが。座席前の「TVモニター」は、昔より随分大きなもので、しかも「タッチパネル」での操作で、何百種類もの映画や飛行機の運航状況、音楽等を好きなように選択でき、しかも映画も自分の好きなタイミングで見られるし見直せる、まさにオン・ディマンド。「ホォー」と思わせるものであった。これは世の中「i―Pad」になるわな、と。つまり「変化」ということを感じさせてくれたのです。
またこの本は、アジアにおけるFTA(自由貿易協定)の持つ意味や、中国のコンクリート生産調整の話(新規施設への投資に融資を認めないこと)などについても書かれていた。日経新聞を注意深く読んでいたら載っている情報なのであろうが、「俯瞰」して情報を見つめ、それを「総合」する作業が無ければ、気にも留めない記事だろう。この本を読み終わった後に中国がコンクリート生産への新規融資(新規設備への投資)をさせないだけでなく、現在の設備による生産調整に入ったという記事が、日経1面の真ん中あたりに(それほど大きくはなく)載っていたのを見た。「アッ」と思った。大きな経済の動きは、普段は気に留めないような具体的な小さな(?)出来事から始まるとするならば、この動きは今後に影響を及ぼすのではないか?などと考えてしまった。
21世紀になって10年、これまでの(20世紀の)あり方を、否応なく見直さなくてはならない大きな転換点に立っていることを、改めて考えさせられた一冊でした。