新・ことば事情
4118「『背』のアクセント」
毎週金曜日は、できるだけ、コーラスの練習に出ます。男声合唱団です。
今練習している曲の一つは、伊藤整作詞・多田武彦作曲『雪明りの路』です。その中に出てくる歌詞「背を見せ」の音階が、
「セ\ヲ ミ\セ」
となっていることに関して、
「標準語のアクセントとしては『セ/ヲ ミ\セ』ではないか?」
と指揮者から質問を受けました。が、即答できませんでした。考えれば考えるほど、
「どっちだっけ?」
という気になりました。
「調べてきます」
と答えて、その日の練習は終わりました。
翌日、「『背』のアクセント」をアクセント辞典を引いてみました。すると、指揮者の指摘とは違い、「頭高アクセント」の
「セ\(が高い)」
でした。多田先生のアクセントでOKというわけです。そのほか「許容」の形として( )内に伸ばした形の、
「セ\イ」「セ\ー」
も載っていました。
ところが話はここでは終わらず、「背」のあとに続く助詞が「を」、つまり、
「背を向ける」
の場合は、
「セ/ヲ ムケル」「セ\ヲ ムケル」
と、「平板アクセント」と「頭高アクセント」の2通りが記述されています。ということは、「背を見せ」という歌詞だと、指揮者が言うように、
「セ/ヲ・ミ\セ」
という「平板アクセント」も正しい可能性が出てきたことになります。
以上は『NHK日本語発音アクセント辞典』によるものですが、これよりも「東京アクセントを残している」という『新明解日本語アクセント辞典』(三省堂)を引くと、「背中」の意味では「平板アクセント」の、
「セ/(を)」
が載っており、「新しいアクセント」として「頭高アクセント」の「セ\(を)」が( )内に記されています。
それとは別に、「背丈」の意味の「背」は、「頭高アクセント」の「セ\」として載っています。
ここから察すると、昔(もともと)は、
*「背中」の意味の「背」は、「平板アクセント」で「セ/」
*「背丈」の意味の「背」は、「頭高アクセント」の「セ\」
と区別していたのが、時代とともに「頭高アクセント」に収斂してきたのではないか?ということです。
そういえば童謡『せいくらべ』の歌詞は「せ\いのたけ」ですよね。これはもちろん「背丈」です。
1文字や2文字の単語には、時々こういったややこしい例外があります。
たとえば、「上」という言葉のアクセントは、
「ウ/エ(に)」
のような形で「平板アクセント」なのですが、
「~の上」
という形のときだけ、
「~のウ/エ\ニ」「~のウ/エ\で」
のような「尾高アクセント」になる、ということがあります。関係あるのかな?